例えばこんな日常
第16章 憧憬モノローグ/AN
リビングの入口に突っ立ったまま、ただただ呆然と部屋を見渡す。
視界にはダークブラウンを基調にした家具が並び、白い壁面にはオシャレな画が飾られていて。
ソファもゆったりサイズで、ガラスのローテーブルの棚にはファッション誌が数冊。
おまけに、どこに目を向けても散らかってなくて、男の一人暮しとは思えないほど整頓されている。
俺んちもシンプルだけど、俺の場合はただ単に物がないだけ。
けど相葉さんちは違う。
部屋全体が纏う雰囲気というか、さっきから鼻を擽る良い香りも全部、相葉さんで溢れていて。
ここに居るだけで、相葉さんに少しだけ近付けたと勘違いしてしまいそう。
「あれ、どうしたの?」
背後からの声にびくっと肩を揺らして振り返ると、自室から戻ってきた相葉さんが大量の服を両手に抱えていた。
「座っててって言ったのに」
言いながら、抱えていた服をラグへ下ろしキッチンへと向かう。
俺はと言うと、緊張と動揺で一言も発することが出来ず、ただ相葉さんの姿を目で追っていて。
相葉さんの完全なプライベート空間に俺が存在してるなんて…
どう振る舞ったらいいか、もうわかんない。
急に声を掛けられて、治まらなくなった鼓動。
カウンターキッチンの向こうで下を向いて手を動かす相葉さんを見遣り、更にどきどきが速まってくる。
「もう座ってなってば」
その視線に気付いたのか相葉さんがふふっと笑って俺にそう促すから、おずおずと傍のソファに腰を下ろした。
ラグに広げられた服に目を遣れば、相葉さんイメージのオシャレなものばかり。
相葉さんのおさがりを着れると思うだけで、また胸が熱く騒ぎ出して。
「気に入ったのありそー?」
両手にマグカップを持って出てきた相葉さんが、ソファで固まる俺に投げかけてくる。
「ふふ、そんな緊張しないでよ」
「……すみませ、」
含み笑いつつコトッとテーブルにマグカップを置いたと思ったら、前触れもなく隣が深く沈んだ。
…っ!
すぐ傍に感じる相葉さんの存在に一気に心臓が高鳴ってくる。
今日は並んで歩けただけでも嬉しかったのに、こんなに傍に相葉さんが居るなんて。