例えばこんな日常
第16章 憧憬モノローグ/AN
「これとかどうかなー…」
座ったままラグの上に置かれた服に手を伸ばし、相葉さんが俺の方を向き直る。
「ちょっとこっち向いて?」
セーターらしきそれを掲げてそう投げかけられるけど、こんな近距離で相葉さんと向かい合うなんて絶対無理。
今にも飛び出してしまいそうな心臓がどくどくと痛い程打ちつけられる。
憧れの相葉さんちで、隣には相葉さんが居て。
願ってもないシチュエーションの筈なのに。
この異常な胸の鼓動と体の火照りのせいで、さっきから居心地の悪さしか感じていない。
緊張はもちろんしてるけど…
この異様などきどきは何?
相葉さんが服を合わせてくれるんだ。
相葉さんのほう、向かなきゃいけないのに…
傍に相葉さんの存在を感じるだけで、体が固まったように動かない。
膝に置いた拳を辛うじてぎゅっと握り締めた時、隣からぽつり小さな声が耳に届いた。
「…ねぇ、」
持っていたセーターをぱたりと膝に置いて、ほんの少しの間のあと再び口を開く。
「にのってさ…
俺のこと好きだよね…?」
耳に入ってきたその言葉に、一瞬意味が分からなくなって。
…え?
「…好き、だよね?」
そう繰り返された時、ようやく体が反応して弾かれたように顔を向けた。
間近で見る相葉さんの表情は、いつもの穏やかな感じじゃなくてどこか窺うような眼差しで。
その雄々しい瞳に射抜かれ、視線を外せない。
…好き?
俺が…
相葉さんを…?
「…え、違うの?」
頭の中でさっき言われた言葉を必死に理解しようとしていると、ふっと相葉さんの表情が柔らかくなり。
「なんだ違ったかぁ…くふ、俺超恥ずかしいね」
そう照れ臭そうに笑って、テーブルのマグカップに手を伸ばそうとしたから。
咄嗟に、その腕を掴んでしまって。
驚いた相葉さんが掴まれたまま固まっているのを視界の端に捉えつつ、その次の言葉が出てこなくて下を向いてしまう。
自分でもこの状況を飲み込めてない。
だって俺、相葉さんの言った言葉をまだ理解しきれてないよ。
だから…待ってください。
それって…
どうゆうことですか?
俺は…
相葉さんが、好きなの…?