例えばこんな日常
第16章 憧憬モノローグ/AN
次の瞬間。
撫でられた頬はそのままに、相葉さんの整った顔が傾けられ。
柔らかくしっとりした唇が、俺のそれと合わさった。
慌ててぎゅっと目を瞑れば、離れ際にちゅっと小さな音を立ててその感触が遠ざかる。
あまりに一瞬の出来事で、目を開けた時にはもういつもの優しい顔がそこにあって。
「…もう分かった?」
そう言われ、揺れる瞳を相葉さんに向ける。
「にのが俺を好きなことも、俺がにのを好きなことも…
もう分かったでしょ?」
照れ笑うその表情に見惚れてしまいそうになったけど、引っ掛かる言葉がはっきりと聞こえた。
…待って。
"俺がにのを好き"って…
えぇっ…!?
「あいばさ…」
「さっ、夕飯作ろっ!にのも食べ、」
「相葉さんっ!」
勢い良く立ち上がって背を向けた相葉さんに、追いかけるように後ろからドンっとしがみ付いた。
身長差のある背中は、ちょうど相葉さんの綺麗な襟足に俺の頬がぴったりくっついて。
熱い顔と飛び出しそうな心臓の鼓動は、密着した体のせいでバレバレだろうけど。
「…待って、ください…
俺まだ…何も言えてません、」
相葉さんの腕を握った手を緩め、そっと背中に沿わせた。
「俺も…
俺は、ずっと…
相葉さんのことが…好きです…」
単なる憧れだと思い込んでたこの気持ち。
日に日に強くなる、相葉さんへの想い。
その正体が今、やっとわかったんだ。
相葉さんに触れてるこの感覚が、間違いなくそれを証明してるから。
俺は…
相葉さんのことが、好きなんだって。
それに…
「…相葉さんも、」
「…ん?」
「俺のこと…」
その途中でふいにくるりと体を向けた相葉さんを、息を呑んで見上げる。
「…俺はね、最初に会った時から気になってた」
「へっ…?」
「だからさ、仲良くなろうと必死だったの」
『それも気付いてなかったんだね』なんて楽しそうに笑ってるけど…うそでしょ!?
「…じゃあ改めて」
急に真面目な顔になった相葉さんが、わざとらしく咳払いをひとつ。
「にののことが…ずっと好きでした。
付き合ってくれますか…?」
返事をしようとした唇は、待ち切れなかった相葉さんの優しいキスで塞がれて、また叶わなかった。