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例えばこんな日常

第17章 高架下ランドリィ/AO






次の金曜日、またいつものコインランドリーに行くと見覚えのある姿が。


「あ、良かった。やっと会えた」


ベンチに座っていたその人は、俺を見つけてふにゃりとあの笑顔を向けた。


「いつ来るかなって思ってて。金曜日なんだ」


はい、と百円玉を3枚手渡しながらそう言う。



…え、毎日来てたってこと?



反射的に小銭を受け取りつつきょとんとする俺の顔を見て、察したようにその人は続ける。


「ふふ、ヒマなんですよ、僕。貧乏だけど」


今度はヘラッとおどけた様に笑うと、またベンチに座った。




それから、毎週金曜日にその人とコインランドリーで会うのが習慣になって。


乾燥が終わるまでの短い時間、他愛のない話ばかりだけどなんだか心地良かった。



なんとなく俺と雰囲気が似てる。
角がなくて、話しやすい。



「もうすぐクリスマスだねぇ」

「あぁ…そうですね。
俺、クリスマス嫌いなんです」

「あ、俺も。え、なんで?」

「いや…俺イブが誕生日なんで。完全に脇役で」


へへっと自嘲気味に笑うと、その人がぷっと吹き出す。


「へぇ…イブが誕生日とか可愛いね」


言い終わるとちょうど乾燥終了の合図が鳴って、ゆっくり腰を上げるその人を目で追った。



"誕生日が可愛い"なんて初めて言われた。
この人は不思議な感覚を持ってるんだな…。



「…あの、なんでクリスマス嫌いなんですか?」


乾燥機から服を取り出している後ろ姿に問いかける。


「…ん〜、サンタだから」


しばらく考えた後で振り向きながらそう答えると、「じゃあまた」と笑ってカゴを抱えて出て行った。

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