
例えばこんな日常
第20章 ためいきデイドリーム/AN
家に着くとそこらへんにリュックを投げ捨て、重い体を引きずるようにベッドへ倒れ込む。
何とか終えた今日のバイト。
体調も最悪な中、思いがけず訪れたラッキーハプニングも相まって思うように体が動かなかった。
あれから捉われた様に頭ん中は相葉さんでいっぱいで。
俺にあんな言葉を掛けてくれるワケがないと思いながらも、相葉さんのその声が耳にこびりついて離れなくて。
…きっとからかわれてるんだ。
俺がいちいち反応してんのにもいい加減気付いたんだろう。
だから連絡先なんて教えて、かけてくるか様子を見てたに違いない。
うん、きっとそう。
じゃなきゃ…
じゃなきゃ俺…
勘違いしちゃうもん。
吐き気すら催すほど寝不足が祟ってるみたいで、ベッドに沈めた体をこのまま1ミリも動かしたくない。
相葉さんにとっての俺なんて、よく行く先のただのコンビニ店員。
普通に考えても、客と店員がそれ以上の関係になるなんてありえないし。
たまたまあの夜話し掛けられて、たまたま名刺を貰っただけ。
相葉さんにとってはそのことに何の意味もなかったんだよ、きっと。
そう考えないと、ほんとに勘違いしそう。
一人で思い上がって、それがやっぱり勘違いだって分かって。
またいつもみたいに勝手に落ち込んで、打ちのめされるだけだから。
今まで22年間生きてきて、そんな恋愛しかしてこなかった俺。
ましてや今回の相手は男。
なんで男なんか好きになっちゃったんだろう。
しかも、今までの恋愛とは比べ物にならないくらい惚れ込んでるっぽい。
だから、だからこそ。
今度こそ勘違いだったら、もう一生恋愛なんてできないかもしれない。
…もう、これ以上傷付くのは嫌なんだよ。
ぐるぐる駆け巡る想いを断ち切って意識を手離そうとした時、フローリングから軽快な着信音が響いた。
無視を決め込もうとしたけど全く鳴り止まない着信音。
うんざりしながらずりずりと体を動かし、床に手を伸ばして手探りでスマホを掴み。
…どうせまた母さんだろ。
最近スマホにしたからって意味も無く電話してくんのやめろよな。
虚ろに画面を見遣れば、そこに表示された番号に一瞬で眠気が吹き飛んだ。
…だって、はっきり覚えてた番号がそこにあったんだから。
