
例えばこんな日常
第20章 ためいきデイドリーム/AN
「…っ、も…もしもし…」
『あ、やっぱり。こんばんは、二宮さん』
ベッドの上で正座をして、左手を膝の上でぎゅっと握り締めた。
『着信あったからさ、もしかしてって思ったらやっぱりだった』
電話の向こうでふふっと笑うその声に、今朝の相葉さんの笑顔が重なって心臓がバクバク高鳴ってくる。
実は今日の休憩中、相葉さんに連絡をしようと試みた。
その時は相葉さんの"待ってた"って言葉に舞い上がってたから、勢いでいけるかなと思ったんだけど。
やっぱり最後の一押しまでは行けず葛藤してたら、いきなり休憩室のドアが開いて店長が入ってきて。
それにびっくりして思わず押しちゃったけど、慌てて切ったからセーフだと思ってたのに。
『何してたの?いま家?』
「ぁ…さっき、バイト終わって…帰ってきて…」
『あ、そうなんだ。お疲れさま』
こんな他愛もない話だけど…いや、他愛もない話をこうして相葉さんとしてるだなんて。
ほんと信じらんない。
これ夢じゃないよね?
そう思ってみても、クリアに聞こえてくる相葉さんの声と確かな心臓の鼓動が紛れもない証拠で。
鼓膜にまで響いてくるそれのせいで、相葉さんの声が上手く頭に入ってこないくらい。
『……とかどう?』
「はい…」
『じゃあ明日の夜にしよっか』
「はい……え?な、何がですか?」
『だからさ、飯いつにするって話』
「…へっ?」
『明日空いてるんだよね?今そう言ったからさ。
俺も明日の夕方には出張から帰るから。
ね、行こうよ二宮さん』
弾むように話し続けるその内容に慌てて思考を追いつかせる。
飯行こうって…
相葉さんとっ…!?
う、うそ…
『じゃあまた明日連絡するね。
あ、今日はしっかり寝るんだよ?それじゃ』
ふふっと笑う声と共に一方的に切られた通話。
ベッドに正座して耳にスマホを当てたまま、石になったみたいに体が動かない。
だけど、鳴り止まない心臓の音と熱く火照る顔が唯一この状況を知らしめていて。
ふいに耳に当てたスマホからピコンと通知音がして、驚いて画面を見れば。
"楽しみにしてるね。おやすみ"
笑顔の絵文字の付いた相葉さんの番号からのショートメールに、じわじわと嬉しさが込み上げてきて枕にボスっと顔を埋めた。
