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例えばこんな日常

第20章 ためいきデイドリーム/AN






指定された場所に約束の30分も前に着いてしまった。


時間が勿体無いからと、相葉さんが出張から帰ったその足で飯に行こうと言うことになって。


土曜の夕方の駅はかなりの人で溢れかえっていて、目の前を行き交う人の群れをぼんやり眺めながら佇んでいると。


ポケットのスマホが一度震えてメッセージの受信を知らされる。


"ごめん、二宮さん。一旦会社に戻ることになって。
少し遅くなるけど大丈夫?"


相葉さんからのそのメッセージにすぐに指を滑らせた。


"お疲れさまです。僕は大丈夫です。相葉さんこそ大丈夫ですか?忙しいようならまた別の日にでも"


そう打って送信した後、少しの後悔が募り出す。


相葉さんからせっかく誘ってもらったこのチャンスを逃したら、もしかしたらもう次はないかもしれないって。


俺から連絡するなんて、まだ勇気が持てなくてきっと出来そうにないから。


けれどそれから数分と経たずに再び受信したメッセージを見て、込み上げる嬉しさに思わず下唇を噛み締めた。




あれから、待てど暮らせど相葉さんからの連絡は来なくて。


3時間近くあの場所で待ってたけど、その間色んなことが頭を過ぎった。



仕事終わらないのかな…


やっぱり今日じゃない方が良かったんじゃない?


あのメッセージの時、俺から断っておいた方が相葉さんに余計な気を遣わせなくて良かったんじゃないかな。


つーかほんとは…
めんどくさくなっちゃってドタキャンされてたりして。


だってさ、やっぱりこんなのどう考えたってフツーじゃないもん。


こんなドラマみたいな展開あり得ない。


好きな人からこんな簡単に飯に誘ってもらうなんてさ。


きっと今回のことは相葉さんの気まぐれなんだ。


そうだよ、そうに違いないんだってば。



いつもの休憩室で、机に突っ伏してスマホの画面を見つめる。


"俺は全然平気。二宮さんが良ければ。
また連絡するから待ってて"


そこで途切れた文面に、性懲りも無く相葉さんの声を重ねてみる。


もう傷付きたくないって自分が一番良く分かってんのに、それでも拭いきれないこのもやもやした気持ち。



…こんなに好きなんだ、俺。

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