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例えばこんな日常

第20章 ためいきデイドリーム/AN






店長に挨拶をして店の裏口から出る。


すっかり夜も更けた大通りは、日曜の夜らしい静けさを纏っていた。


当然のように相葉さんは店には来なくて。


加えて俺のスマホも震えることはなく。


沈んだ気持ちの片隅には、消化不良のままの相葉さんへの想い。


この行き場のないやるせなさは、自分でしか解消できないはずなのに。


未だに一歩を踏み出せずにいる自分自身に、いい加減嫌気がさしてくる。


だったらもう、この想いはここで終わらせるしかない。


そうするしか選択肢はないんだから。



明日からどんな顔して相葉さんを迎えようか。


例え相葉さんが昨日のことを軽く謝ってきたとしても、愛想笑いの一つでも作れなきゃ接客業者として失格だ。


何事もなかったように。
いつも通りに振る舞えばいい。


うん、できるよ俺は。
つーかやってみせる。


そうでもしなきゃ…
また余計な傷負っちゃうもん。



そう小さく意気込んだ気持ちとは裏腹に、とぼとぼと足取りは重くて。


無意識にはぁと吐いた溜息とほぼ同時に、背後から急に肩を掴まれた。


驚き過ぎて声も出ずに振り向けば、そこには今しがた頭に浮かべていた人の姿が。


「っ、あい…」

「ごめん!」


まさかの登場に言葉に詰まるより先に、その顔は深々と下げられて見えなくなった。


一体何が起こっているのかと頭の中は混乱してて。


急に現れた相葉さんに、俺ものすごく謝られてる…?


その理由は一つしか思いつかないけど、余りに深々と下げられた頭にこっちが焦ってしまい。


「いや、相葉さんちょっと…」

「ほんとに申し訳なかった!ほんとにごめんっ!」


未だ頑なに腰を折ったままの相葉さんの肩を揺すり、どうにか顔を上げてもらおうと声を掛ける。


ちらほら行き交う人々からも怪訝な眼差しを向けられ、居た堪れなくなって再度強めに名前を呼ぶと。


おずおずと上げたその表情は、いつもの相葉さんと打って変わって情けない顔をしていて。


初めて見たそんな表情に、押し込めようとしていた気持ちがまた蘇ってきたような感覚がした。

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