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例えばこんな日常

第20章 ためいきデイドリーム/AN






「…言い訳してもいい?」


目を上げた相葉さんが、恐る恐ると言った感じで口を開く。


こんな俺なんかに心底申し訳なさそうにしてるのが、何だか逆に申し訳なくて。


こくり頷けば、目の前の相葉さんはやっと居住まいを正してふぅと息を吐いた。



どうやら昨日は完全に仕事が遅くなったらしく。


というのも、会社に戻ったらパソコンの調子がおかしくてせっかく出張先で纏めてきたデータも全て飛んでいたらしい。


すぐにデータの復旧に取り掛かったものの、すこぶる調子の悪いパソコンのせいでかなり苦戦したとのことで。


おまけにスマホも充電切れで、俺に連絡しようにも出来なかったみたいで。



なんだ…
やっぱり仕事が長引いてたんだ。


俺のことどうでもよくなったわけじゃなかったんだ…



尚もバツの悪そうな顔で続ける相葉さんを、内心飛び上がりたい程の気持ちを何とか抑えて改めて見つめる。


すると、ある事に気付いた。


着ているスーツもシャツもネクタイも全て、金曜日見たものと同じだ。


え、もしかして…


「あの…もしかして、会社に泊まったんですか…?」


窺うようにそう訊ねれば、ぽりぽりと頭を掻いてふふっと自嘲気味に笑って。


「…やっとさっき終わってさ。ほんとツイてなかったよ。でね、二宮さんに連絡しなきゃって思ったけど行った方が早いかって思って」


おどけたように告げた後、目尻に皺を作って笑うその笑顔に胸がきゅっと締め付けられた。



…だめだよ、だめ。


こんなに優しく笑いかけられて、しかも俺を探して会いに来てくれたなんて…


ほんとに…勘違いしちゃうから。



どきどきと早まる心臓を塞ぎ込むように、ぎゅっと手を握り締める。



存分に期待だけさせられて、また簡単に裏切られるのが怖い。


相葉さんにそんなつもりなくても、俺の方は既に深みに嵌まりかけてるんだ。


この気持ちを堰き止めるなら今だって分かってる。


…分かってるんだけどさ。



「…でさ」


いつの間にか俯いてしまっていたらしく、相葉さんの小さく発したその声で顔を上げる。


「今日はこの後…予定ある?」

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