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例えばこんな日常

第20章 ためいきデイドリーム/AN






ゴソゴソとビニール袋からビールやらを取り出す動きをじっと見つめつつ、聞こえるんじゃないかってくらいゴクリと息を呑み込んだ。


「ぁ…あの、」


久し振りに出した声は思いの外小さくて、ビニール袋の擦れる音に紛れて相葉さんには届いていない。


「ぁ…相葉さんっ…」


更に絞り出せば、やっと手を止めてこちらに目を遣る気配がした。


だけど、どうしても相葉さんの顔は見れなくて。


膝の上で握り締めた拳にぎゅっと力を込め、ラグに視線を落としたまま続けた。


「あの…いきなりこんなこと言うの…
おかしいのは分かってるんですけど…」

「うん?なに…?」


すぐ傍であぐらを組む相葉さんが、体を向き直して俺の言葉を待ってくれてるのを察する。


「あの、俺…ずっと、相葉さんのこと見てて…
あ、店で…。
で…ずっと、かっこいい人だなって…思ってて…」


言いたいことが頭ん中で上手く纏まらないまま、ぽつりぽつり呟くようにしか声が出なくて。


「それで…あの日、相葉さんに話し掛けて貰って嬉しくて…。
もうほんと嬉しくて…こんな、今ここに居ることもほんとに信じられないって…」



詰まりながらも、ただただぶつけてるだけの想い。


こんなの相葉さんにとってみりゃ、だから何だって話だと思うけど。


だけど…お願い。


どうか最後まで…言わせてください。



「…こんなの、気持ち悪いって思われるかもしれないけど…。
俺…俺っ、相葉さんが、」

「待った!」


頭に浮かべてた最後の二文字を言葉にしようとした時、被せるように発せられた声。


急なことに驚いて思わず顔を上げれば、目の前には相葉さんの手の平が。


視界を塞いだその手がふっと下ろされると、なぜか潤ませた瞳でじっと俺を見つめる相葉さんの整った顔。


「やっぱり…そうだったんだ…」


ぼそっとそう呟いたかと思ったら、今度は下を向いて何かを堪えるように肩を震わせる。


遮られた意図も、相葉さんが発した言葉の意味も何もかもが分からなくて。


今のこの状況に、不安なのか悲しみなのかも分からない涙が込み上げてきた時。


「良かったぁ…」


はぁっと肩を沈ませて吐いた溜息と同時に、ゆっくりとその顔が上げられた。

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