例えばこんな日常
第24章 動機不純100%/AN
そんな悪夢のような出来事をネタにしないワケがない。
週に一度のレギュラーの収録日。
楽屋ではみんないつもの定位置で思い思いの過ごし方をしていて。
ソファーにあぐらを掻いてひたすら手元に視線を落とすにのをチラ見しつつ、テーブル席の向かいの翔ちゃんに例の夢のことを話したら。
「ぶっは!マジで!?どえらいの見たね」
「いやどえらいなんてもんじゃないって!だって体は女の人で顔がにのだったんだからさ」
「いやそれマジで衝撃だわー…」
眉を下げて笑いつつ翔ちゃんもソファのにのに視線を遣る。
相変わらず下を向いて動かないいつもの姿。
あぐらを掻いた猫背はいつもより更にその存在を小さくさせていて。
どう考えたってあの夢はおかしかった。
でもなぜか妙に肌を交えた感覚はまだ残ってんだよな。
体は女の人のはずなのにやけにしっくりきたあの感じ。
それに今こうして見ているにのとは全く別人みたいな顔で俺の名前を呼んでさ。
「っ、あ…!も~…相葉さんが変な話するから…」
くたっとソファに背を預けたにのからポツリ漏らされたセリフ。
さほど広くはないこの楽屋だから俺と翔ちゃんの会話も丸聞こえだったみたい。
それににのってゲームしててもよく人の話聞いてんだよな。
「なによその夢」
「いやこっちのセリフだよ!なんでお前なの?」
「知らないよそんなの」
「しかもちょー気持ち良さそうだったし」
「くはっ、やめろ!」
耳を赤く染めて笑うにのは、照れ隠しかコーヒーメーカーへと向かっていく。
「そいでさ、どうだったのにのは」
そんなにのにわざと聞こえるように俺に話す翔ちゃん。
「え、にの?…めちゃ良かったよ」
「おいやめろ!」
「ぶはははは!」
コーヒー片手に耳を真っ赤にしてそう突っ込む姿を翔ちゃんが爆笑しながら見てる。
俺もつられて笑ったけどさ、実際そんなに笑えないんだよね。
悪夢だって言ってこうしてネタにしたかったのも、誰かに聞いてほしかっただけで。
笑い飛ばしてくれるだけで良かったんだけど。
いや、なんか自分で墓穴掘ったような気もしないでもない。
だってさ…
マジで良かったんだもん、にの。