例えばこんな日常
第24章 動機不純100%/AN
「…なに?どしたの?」
明らかに怪訝そうに眉を顰めたにのに覗き込まれ、慌てて姿勢を正して取り繕う。
「いやっ、何にも…」
「……ふーん」
じっと見つめられている視線を横に感じつつ、再びソファに背を預けてスマホとタッチペンを握った気配にホッとした。
あの決定的な夢を見てしまった日から、事あるごとににのが夢に出てきていて。
しかもその行為はだんだんエスカレートしていってる。
いやエスカレートっていうか…
ヤってる時のにのの顔とか仕草とか、もう全部何もかもが。
やけに鮮明に頭にこびりついて離れなくなっていて。
俺はと言うと、そんな夢のせいで完全に自分を見失ってる状態。
言ってみれば…
もう完全ににのの虜になっちゃってんだ。
だからこうして仕事で会う度にどう接していいか分からなくて。
今までどんな風ににのと話してたっけとか、こんなにいつも隣に居たっけとか。
自分でも情けないくらいにのに対して緊張してしまってる。
しかも…これからコンサートのリハーサルが続くから会う頻度も多くなってくるし。
広いリハーサル室の一角にある休憩スペースのソファ。
隣にあるにのの気配を過剰に感じながら、異常なまでにソワソワしている俺。
ローテーブルの上に散らばるコンサートの資料。
打ち合わせは30分後なのに、どうにも手持ち無沙汰でとりあえず手に取って眺めてみたりして。
肘掛けに腕を置いて資料に目を向けても、そこに書かれてある文字が何にも入ってこない。
資料越しにチラリと隣に目を遣れば、だらりと背凭れに体を預けたいつものにのの姿。
朝から振りの練習をしていたこともあって、ヘアバンドで髪を纏めた横顔。
つるんとしたおでこと通った鼻筋。
その下にちょんと突き出た唇。
むっと口を結んでひたすらスマホに視線を落とすにのは、もちろん俺の横目には気付いていないだろう。
着てるものもいつものだるだるの黄色いTシャツにハーフパンツだし。
…あ、俺があげた靴履いてる。
ハーフパンツから伸びる白い脚の先、そのスニーカーを見つけて思わずふふっと笑みが溢れてしまって。