例えばこんな日常
第24章 動機不純100%/AN
「…ねぇこっち向いて」
俯いてしまったつむじに呼び掛けるけど、ジッと動かずだんまりを決め込まれて。
「にの、」
掴んでいた手首をくいっと動かすと、目を上げた隙を見て顔を屈ませてキスをした。
「っ、なっ…」
「あのさ、」
驚いて唇を離したにのをそのまま引き寄せ、飛び込んで来た小さな肩をぎゅっと抱き締めて続ける。
「これも優しさだって言われたらそれまでかもしんないけどさ」
「……」
「俺はね、にのとこういうことするの全然嫌じゃない。ていうかむしろ…」
「……なに」
「うん、いや…にのとね、こういうことしたいって…思ってんだよね…」
詰まりながらもそう告げれば、腕の中のにのがきゅっと強張った気がして。
…じゃなくて!
また勘違いされる前にちゃんと言わないとダメだ。
「だからっ…いやだからってことじゃないけど、」
「……くはっ」
一人口ごもっていると、首元で漏らされた暖かい吐息。
そっと顔を上げた至近距離のその表情は、笑いを堪えるように緩く口を結んでいる。
そしてその瞳からはさっきの儚さは微塵も感じられなくて。
「…分かったよもう。分かったから」
「え、いやまだ、」
「いいの。もう言わなくていい」
「えっ」
緩めていた腕から離れたにのは、立ち上がってイテテと言いながら腰を摩ってる。
「ごめんやっぱベッドで寝かして」
振り向いてそれだけ言うと、タオルケットを抱えてペタペタとフローリングを歩いて行き。
「じゃあね、おやすみ」
そう言い残しパタンとリビングのドアは閉められた。
一人取り残されたままぼんやりとドアを見つめて。
静まり返った部屋が急に物寂しく感じる。
…何だったんだろ、今の。
いや、ていうか俺…
まだちゃんと言えてないんだけど!
にのの感触やセリフは紛れも無く事実であったとしても、全く手応えを感じていないこの頭の中。
おやすみって言われても…
こんな状態でおやすみできるわけ…
ふと去り際のにのの姿がリフレインして。
俺が使うはずのタオルケットを抱えて寝室へ向かった後ろ姿。
え、てことは…
俺のベッドで小さく丸まって眠るにのが浮かび、思わず頰が緩まった。
…これからはもう夢に出てこなくていいからね、にの。
end