
例えばこんな日常
第25章 君が好きだと叫びたい/SO
しかも櫻井くんに"智"って呼んでもらえてるって事態。
今まで友達に下の名前で呼ばれたことなんてなかったから。
櫻井くん達がそうであったように、今までのクラスメイトは俺の下の名前すら知らなかったくらいだし。
「えっと…明日の授業までだったと思う」
「えっマジ!?やっべぇ俺間に合わねぇかも!」
目を見開いて焦る櫻井くんのその顔に、思わずふふっと笑みが溢れて。
「…良かったら俺の使う?」
「え、いいの?いやでも…」
「いいよ。答え合ってるか分かんないけど」
「っ、マジ!サンキュー智!」
そしてキラキラした瞳で机に置いていた両手を掴まれ。
っ…!
ニッコリと爽やかな笑顔で見つめられ、たちまち顔に熱が集まる。
「んじゃ借りてくわ。マジでありがと!」
言いながらまたひとつ微笑み自分の席に着く後ろ姿を見つめて。
こうして距離が縮まれば縮まるほど、俺の中で大きくなっていく櫻井くんへの気持ち。
今まではスケッチブックの中で大事に大事に育ててきたけれど。
想い描いていた眼差しを向けてもらえることが、こんなにも幸せだなんて。
最近は休み時間に開くことの減ったスケッチブック。
授業まであと少しの間、さっきの笑顔を残したくてそっとページを捲った時。
ざわざわとした教室の中で、はっきりと耳に届いた声。
届いてしまった、声。
『最近の大野ってさ、ちょっと勘違いしてんじゃね?』
複数の納得する声に続いて、次々に発せられる言葉。
『相葉とか櫻井と一緒に居るってだけだろ』
『あいつらもあいつらだよな。ただのグループワークの組なのに』
『そうそう、可哀想じゃん大野が。友達になれたって思ってんじゃね?』
『良いように使われてんだろどうせ』
ガハハと笑い合う声がやけに大きく耳にこだまする。
こういう類の言葉には一通り慣れてはいるつもり。
だけど。
ページを捲った先に現れた、描きかけの爽やかな笑顔を見た瞬間。
っ…
急に目頭に込み上げてきた熱。
レンズ越しに映る灰色の櫻井くんの笑顔が、段々とぼやけてきて。
…泣くことなんかないのに。
こんなこと言われるの、初めてじゃないだろ。
むしろその通りだって思うよ。
やっぱり俺…
勘違いしちゃってたんだ…
