
例えばこんな日常
第25章 君が好きだと叫びたい/SO
「大ちゃん帰ろー!」
ホームルームが終わり、いつものように笑顔で近付いてくる相葉くん。
「…ぁ、ごめん。今日ちょっと用事あるんだ…」
「え?」
「…って!ちょ、なに?」
「いや…大ちゃん一緒に帰れないって」
俺の返事に立ち止まった相葉くんの後ろから、スマホを握った二宮くんがおでこを摩りながら顔を覗かせる。
「どうしたの?なんの用事?」
「ぁ…いや、その…」
「いいよ言わなくて。じゃあまた明日ね」
「えっ、にの!」
ニコッと笑って手を振る二宮くんに引っ張られていく相葉くん。
分かってる。
今のは二宮くんの優しさなんだってこと。
だけど、耳にしてしまったあいつらの言葉とやけにリンクして。
放っておいてほしいくせに、まるで突き放されたように勝手に解釈してしまう自分が嫌になる。
でもここで線を引いておかないと。
これ以上勘違いしちゃいけない。
この空間が当たり前だなんて思っちゃいけない。
俺は変われない。
変わることなんてできない。
これまでのように、教室の片隅で黙々と一日を過ごすだけ。
誰の目にも留まらずに、ただただひっそりと。
この場所で…
斜め前の背中を見つめるのが似合ってるんだ。
どれくらいの時間が経ったのか、もうすでに教室には誰も居なくなっていた。
オレンジ色の陽が差し込む窓際、定位置に座ってカバンからスケッチブックを取り出す。
鉛筆の先を途切れた輪郭につけ、頭に浮かんでくるあの笑顔を映し出して。
駆け巡る表情は、そのどれもが俺に向けられる笑顔ばかりだけれど。
今までのイメージより遥かに鮮明な筈なのに、苦しくなるくらい眩し過ぎて上手く描き起こせない。
距離が近づいたばっかりに負わなくていい傷を負って。
そればかりか、もう修復できないくらい深いところまで届いてしまった気がする。
だったら…
だったらもう、いっそのこと無かったことにしてしまおう。
こんな行き過ぎた想いなんか、全部無かったことにすればいい。
そっと鉛筆を机に置いて、開いたページの上端を指で摘んだ。
少し力を入れるとピリッと小さな音がして、同時に胸がチクっとざわめいて。
