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例えばこんな日常

第25章 君が好きだと叫びたい/SO






ふーっと息を吐いて心を落ち着かせてから、再びグッと指に力を入れた。


同時に、教室のドアがいきなりガラッと開いて。


「…っ、うおっ!」


その音と声にビックリして振り向くと、後ろのドアに佇む面食らった顔の櫻井くんが。


突然現れた櫻井くんに慌ててスケッチブックを閉じる。


「びっ…くりしたぁ。なに?どうしたのこんな時間まで」


心底驚いた顔の櫻井くんは、そのまま自分の席に歩いて行って机を手探りだして。


「今日智から借りた課題忘れちゃってさぁ。
途中で気付いて取りに来たら居るんだもん。
マジでビビったって」


ちらちらとこちらを振り返りながら机を探る櫻井くんに何も返すことが出来ずに。


"あった"と言って振り返ったその顔が、オレンジ色に照らされてあまりにも眩しくて。


何か言わなきゃと思うけど、言葉が出てこない。


「…智、どうした?」


小さく笑って問い掛けてくるその表情も。


"智"って俺を呼ぶ穏やかなその声も。


やっぱり…


やっぱり、無かったことになんて出来ないよ。


無造作に閉じたスケッチブックをぎゅっと握り締める。


ここには俺のすべてが…


どうしようもない想いが何ページにも積み重なってる。


「あ…もしかしてそれスケッチブック?」


机上にぽつんと乗っかっているこの存在に気付いた櫻井くん。


途端にドキッと心臓が飛び跳ねたけど、それも一瞬のことだった。


もしも今言えることがあるとするならば。


言葉の代わりに、このスケッチブックに俺の想いを乗せて。


どんな結末になったっていい。


無かったことにするくらいなら。


破り捨ててしまうくらいなら。


大事にしてきたこの想いを、やっぱり届けたいから。



「それ描いてたの?見てもいい?」


いつものように前の席に座り、大きな瞳で俺の顔を覗き込んでくる。


ごくっと唾を飲み込んで、ジッと様子を窺う櫻井くんへゆっくりと手元のスケッチブックを差し出した。

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