
例えばこんな日常
第25章 君が好きだと叫びたい/SO
スケッチブックをパラパラと捲れば。
櫻井くんばかりだったページは途絶え、いつも傍に居てくれている優しい笑顔の面々が覗く。
地味で暗い俺に、恋心をもたらしてくれて。
友達もいなかった俺に、仲間と過ごす時間ももたらしてくれて。
そして…
離れていても想い続けることのできる強さを与えてくれた。
櫻井くん…
俺は、元気にやってるよ。
「あーあ、翔ちゃん元気かなぁ…」
向かいで箸を口につけて窓の外を眺める相葉くん。
澄んだ青空に漂う小さな飛行機を見つけて、同じように視線を外に移した。
「遠いよなー…アメリカ」
「まぁね。ちょっと行ける距離じゃないしね」
静かにそう呟いた松本くんと二宮くんの寂しげな声が届く。
「急すぎて実感湧かねぇんだよなぁ…」
ぽつり溢した松本くんの視線が主の居ないその席に向けられて。
一週間前、櫻井くんはお父さんの仕事の都合でアメリカへ旅立つことが決まった。
それはちょうど、櫻井くんにスケッチブックを見せた翌日のことで。
突然のことにみんな驚いたけど、一番ショックだったのは他でもない本人だったから。
アメリカに発つまでの数日、俺たちは5人でずっと一緒に居た。
いつもと変わらない日常をただ5人で過ごした。
出発の日、空港で櫻井くんが俺に残した最後の言葉は。
"みんなの似顔絵が欲しい。完成したら送って"
そう言って笑顔で手渡された向こうの住所が書かれたメモ紙。
あの日から日課になったみんなの似顔絵も、随分上手く描けるようになったんだ。
だから…
そろそろ届けるよ。
向かいで少し緊張したように口を結ぶ相葉くんにふふっと笑みを溢す。
サラサラと鉛筆を走らせながら遠い地に想いを馳せて。
もしかしたら今なら、今の自分なら。
面と向かって言えるかもしれない。
嘘みたいに向上していく自分の気持ちに、少し戸惑うこともあるけれど。
でもきっと大丈夫。
溢れて溢れて、叫びたくなるくらいのこの想い。
今度こそちゃんと伝えるから。
『君のことが好きです』と。
end
