
例えばこんな日常
第28章 ピンクの酔いどれカウボーイ/AN
パタンと冷蔵庫を閉めた背中に後ろからふいに抱き着いてみた。
一瞬ぐっと力が入ったけど、すぐにそれも抜けてすっぽりと包まれる俺より小さな体。
ぎゅっと力を込めたら笑い声が漏れて。
「もう…なに?」
「んー?いや…にのが可愛いからさ」
「んふっ…なにそれ…」
「ねぇ…」
にのが好きな低めの声で赤い耳に囁けばきゅっと縮こまる肩。
絶対今日はいける。
ストレートにいける。
お決まりの一度嫌がってみる素振りもなくストレートにいける気がする。
「…早くエッチしよ」
誰もいないけどあえて小声で。
このほうがにのには効くことを経験上知ってるから。
ほんのちょっとの間のあと、もぞっと身動いだ腕の中のにのは。
顔だけ振り返り赤く潤んだ瞳で見上げてきて。
「…俺も今日は早くシたい」
ってそんな甘えた声出して一体どういうつもり?
え、なにここで襲っていいってこと?
「んっ…」
堪らずに振り返ったままのにのの唇に貪りつく。
口内はアルコールの余韻でいっぱいで。
おまけに密着した体から伝わってくる茹であがったような熱が。
アクセルを一気に加速させ、更にぎゅっと抱き締め直した時。
「はぁっ、ちょごめ…風呂入りたい…」
熱い吐息を溢しながらそう訴えかけられ。
「え、もういいじゃんこのまま、」
「やだよ。すっきりしたいもん」
「えー…」
風呂入ったら酔い醒めちゃうじゃん!
このまま可愛いにのを思いっきり甘えさせたいのに。
「待ってて、すぐだから」
「えーいいじゃんもう…」
「よくないの。待っててよ」
どことなく覚束ない足取りのままキッチンを出て行ったにの。
その舌っ足らずな喋り方も数分後には元通りなんだろ?
なんだよ、サービスタイムもう終わりかよ!
くっそ、もう押し倒しとけば良かった…!
中途半端に期待を膨らませた心と俺の中心。
このあとにのとエッチするのはするけど。
今日みたいなガードの甘いにのとのエッチなんてそうそうありつけないんだから。
惜しいことしたー…。
…あ。
そうだアレがあった!
脳裏に浮かんだその姿を思い出し、意気揚々とキッチンを駆け出した。
