例えばこんな日常
第7章 99.9%難しい恋/MO
《村沖舞子のお悩み相談室》
いつものように社長の好きな温度のコーヒーを持って、ノックのあとに社長室へ入る。
デスクで書類に目を通す社長の元へ、ことりとコーヒーを置いて。
「…社長、深山先生の件ですが、」
そう言うと途端にぴくっと肩を動かして、手元の書類で顔を隠してしまった。
ここ数日、社長の様子が明らかにおかしい。
様子がおかしいのには慣れているつもりだけど、今回はなにかが違うような…
そう、決まって"深山先生"のワードを出すと、どこか落ち着かなくなるような気がする。
…もしかして、
いや…まさかそんなこと。
「…社長、」
「…なんだ」
「来週の月曜日ですが、深山先生が今後のスケジュール等の打合せに来られます」
「っ!?」
言い終えると同時にバッと顔を上げた社長は、何か言いたげに口をあわあわと動かしていて。
「…ま、まだ顧問契約するとは言ってないぞ俺は!」
「今さら何をおっしゃってるんです。先日すでに先方と契約を交わしたじゃありませんか」
「お前が勝手に進めたんじゃないか!俺の意見は無視してトントン拍子で決めて!
それに…アイツは変人過ぎるぞ!
ヘラヘラして訳のわからないことばっかり言って、」
立ち上がって部屋を歩きながら、どんどんヒートアップしていく社長を見つめる。
…変人なら負けてないと思うけど。
って、そんなことはどうでもよくて。
この感じ…あの時と似てるわ。
これは社長の本意を確かめないと…
「…そこまでおっしゃるんでしたら、社長。
深山先生との顧問契約は破棄されますか?」
「えっ…?」
ほら、やっぱり。
急にトーンダウンしたような顔になって、目が泳いでる。
…もう一押しかしら。
「私が出過ぎた真似をしてしまい、申し訳ありませんでした。社長がそこまで嫌悪感を抱いてらっしゃるとは思わなかったので…。
では深山先生には私の方から連絡を、」
「っ、待て!いや…その、そう!まだ決めかねているんだ!」
焦ったような顔と口調でそう言う社長。
顔色を変えずにそのまま次の言葉を待つと。