例えばこんな日常
第7章 99.9%難しい恋/MO
《いざ、刑事事件専門ルームへ》
案内された階段を降りると、ガラス張りの大きな扉が目前に現れた。
後ろにいる村沖をチラリ振り返ると、にっこりと大きく頷く。
俺はまだ、自分が本当にアイツのことが"好き"なのかが分からないでいた。
あのヘラヘラにやにやした顔。
じっと見つめられると固まりそうなほどの目力。
おちょくるような瞳で人の話を聞く顔も、いちいちイラっとくる。
ここ最近、一回しか会ってないアイツのことばかり考えて、イライラして仕事も手につかない始末だ。
考えれば考えるほどモヤモヤしてきて、頭がアイツのことでいっぱいで…
なんてぽろっと村沖に言ったら、バッサリと「それは一目惚れです」と言われた。
…これが一目惚れなのか?
こんなにイライラモヤモヤするものなのか?
この気持ちの正体を確かめたくて、今日はアイツに直接会いに来たというわけだ。
…俺は、本当にアイツが好きなのか。
ぐっと息を呑み込んで勢いよく扉を開けると、静まり返った室内に人の気配はなく。
…誰もいないのか?
もう11時だぞ?
恐る恐る中に足を踏み入れると、入り口すぐのデスクの側で寝袋に入った男が目を開けて寝ていた。
「うおっ…!」
思わず声を上げて後ずさりする。
なんなんだここは…
「あれ?鮫島さん、」
すると奥の方から声がして、回転椅子に座ったまま移動してきたアイツが顔を覗かせた。
その手には資料とペンを持っていて。
不思議そうにこちらに向けられた眼差しに思わず目を逸らす。
「どうしてここに?」
「あ…ちょっと近くまで来たから、君がどんな仕事ぶりをしているのか見ておく必要があると思ってな、」
顔を見ずにそう言うと、視線は感じるがなにも答えないのが気になってチラッと目線を遣った。
すると、こちらをじっと見つめる視線とぶつかってそのまま動けず固まってしまった。
ぐっ、こいつはメデューサか…!
「あの、最初に言っておきますけど…
僕、刑事事件専門なんで。
企業弁護はやったことないんで、多分役に立たないと思いますよ」
またヘラヘラした顔でそう言うと、立ち上がって資料を手に白板へと歩いていく。