例えばこんな日常
第7章 99.9%難しい恋/MO
…いや待て、じゃあなぜ契約したんだ!?
やっぱりコイツおかしいぞ!
俺がこんなヤツを好きな訳がっ…
「…だけど、」
ぴたっと立ち止まって振り返ったヤツが、こちらを真っ直ぐ見て続けた。
「…僕をクビにはできませんよ?
最後の砦らしいんで、僕」
しっかりとした眼差しで言い終え、口角を上げてきれいに笑うソイツから目を離すことができなかった。
…なんだ、そうか。
やっとわかったぞ。
コイツをクビにできない理由が。
俺は最初から、
初めて会った時から、
コイツのこの笑顔が…
好き、だったのか。
白板に貼られた資料を腕組みして眺める後ろ姿をぼんやりと見つめて、頭の中で巡らせた言葉をどうにか整理する。
…こうなっちゃしょうがない。
それならば。
俺は今、何をするべきか…
ふわふわと視線を室内に辿らせると、壁掛け時計が目に入って。
…そうか!よし!
「…君、」
絞り出した声は若干掠れていたが、それに気付いたヤツが静かに振り返る。
「…はい?」
「その、今から一緒に…昼飯でもどうだ?」
「え?」
「その…君は我が社の顧問弁護士だ。
いわば…パートナーだ、うん。
…その君と親睦を深める必要があると俺は感じた!
そう、今感じた!」
一息に言い終えてから、期待を込めて窺うような視線を向けると。
「あー…ごめんなさい。
僕、弁当持参なんです」
抑揚のない口調でそう告げられて、一気に興醒めする。
べ、弁当…
そうか…
見かけ通り倹約家なんだな…
「…じゃあ、今夜空いてます?」
ふいに聞こえたその言葉に、思わず目を上げた。
…えっ、今夜!?
「あ、でも急なんでまた今度でも、」
「村沖!」
扉の外に居た村沖を呼び、今夜のスケジュールを確認する。
「…あぁ、大丈夫だ。今夜はたまたま空いていた。
たまたまな」
スケジュール帳に書かれた文字を無視して、努めて冷静に答えた。
村沖の視線を痛い程感じるがそんなこと今はどうだっていい。
「じゃあ、19時にここで。
僕、いい店知ってるんで」
自信ありげにはにかむヤツを前に、つられて頰が緩んでいくのを自覚した。
…よしっ!
よくやったぞ鮫島!