例えばこんな日常
第7章 99.9%難しい恋/MO
山盛りに積まれたブロッコリーと肉団子、それから得体の知れない黒いカタマリ越しに、黙々と調理を進めるヤツを窺う。
…まさかこんな展開になるとは。
普通にメシを食いながら、楽しくおしゃべりすることを想定していたのに。
さっきから一言も喋らずに手元を動かす、その真剣な表情をじっと見つめる。
今までヘラヘラした顔しか見たことなかったが、口を結んで少し伏し目がちなその眼差しに急に心臓がきゅっと痛くなった。
…い、いかん!
またモヤモヤしてしまう…
ふいに目線を上げたヤツと目が合って、慌てて逸らした。
「あ、お腹空きました?もうちょっとなんで」
そう言って軽く微笑んで、こちらに背を向けて調味料の棚に向かう後ろ姿を目で追う。
…なにかおしゃべりしなくては。
こういう時、なにを喋ったらいいんだ?
…あ、そうだ!
「…君はっ、す、好きな食べ物はなんだ?」
声量を間違えてしまった俺の問いかけに、驚いたようにヤツが振り返った。
「…美味しいものなら何でも、」
しばらくの間のあと真顔で短くそう答えると、また後ろを向いてしまった。
…くそっ!
何でも好きだと?
話が広がらないじゃないか!
ぐっと奥歯を噛み締めつつ、テーブルを指で弾きながら頭の中をフル回転させて。
ようやく一つの答えに辿り着いた。
…もうここは、思い切って聞いてみるか?
そして、その流れで…
椅子に座り直して、組み合わせた両手をテーブルに置いてふぅと息を吐く。
…よし。
「君は…その、す…好きな人は、いるのか…?」
意を決したものの、さっきと比べ物にならないくらい小さい声しか出ず、俺の声は厨房の調理の音にかき消されてしまった。