例えばこんな日常
第7章 99.9%難しい恋/MO
《家康くんの出番です》
「おはようございます!」
企画戦略部のドアが開いて、社長と舞子さんが側を通り過ぎる。
あれ、今日は元気なさげだな…
はっ、そうか!
「今日は一段と機嫌悪そうだったな〜」
「蛭間さん、それ俺っス。
俺のネクタイ今日、水色っスもん」
「おい!なんで青してこねぇんだよ!つぅかお前に左右されてるとは思ってねぇけどな!」
「いや〜今日のラッキーカラー水色だったんスよ。
そこは譲れないっス」
ガミガミ言う蛭間さんの奥の、社長室に続くドアをチラリと見る。
あの落ち込み様…ただごとじゃないな。
よし、ここは…
社長の右腕、三浦家康の出番だ!
適当に資料を持ち、白浜部長に『社長室に呼ばれてる』と伝えてドアをノックした。
「失礼します。舞子さん、社長にこの書類を見てもらいたいんスけど、」
「…社長は今忙しいの。
後で渡しておくから、私が預かるわ」
「いえ、今がいいんス!
社長のピンチを救えるのはこの俺しかいないんスから!」
「あなた何言ってるの?
社長は今忙しいの。
ちなみに私も忙しいの。
はい、資料を…」
椅子から立ち上がりかけた舞子さんを振り切るように、社長室のドアをノックして開けた。
舞子さんの声を後ろに勢いよく部屋に入ると、社長の姿が見えない。
「あれ?社長…?」
キョロキョロと部屋を見回していると、キィと静かに回転椅子が回った。
背凭れにすっぽりと隠れて見えなかったけど、確かにそこには膝を抱えた社長が死んだ目をして座っていて。
「…なんだ、お前か」
力無くそう言うと、またキィと椅子を回転させて後ろを向いてしまった。
「社長っ!何があったんスか!
悩み事っスか?この三浦が何でも聞くっスよ!」
社長に駆け寄って、椅子の向こうに回り込む。
膝を抱えて遠い目をする社長の元に膝をついて、その表情を窺うと。
…なるほどな。
「…社長、さては恋っスね?
恋の悩みなんスね?」
そう言うと社長の肩がピクリと動き俺の方に目線が送られた。
「なっ…なぜ、」
「ほら、俺そういうの分かっちゃうじゃないスか。
社長のことなら何でもお見通しなんスよ。
なんせ右腕っスから!」
力強く頷くと、社長の目がうるっとした。
…社長、大丈夫っス!
この三浦にお任せください!