例えばこんな日常
第7章 99.9%難しい恋/MO
未だ椅子の背凭れに体を預けてどんより顔の社長の対面で、意気込んで訊ねる。
「で、どんな悩みなんスか?」
「…フられたんだよ、」
「え?」
「相手がいたんだ、すでに…」
デスクの上の資料にペンでクルクルと落書きしながら、社長が拗ねたようにぽつり呟く。
「…社長は言ったんスか?
"好きだ"って」
「あぁ言ったよ。けど…伝わってなかった」
「え?じゃあ何で彼氏いること知ってんスか?」
「…その相手から、直接言われた。
それに…」
そこまで言うと目を伏せて言い淀んで。
不思議に思って窺っていると、小さく口を開いた。
「彼氏じゃなくて…彼女、だ」
モゴモゴとそう言った社長の言葉を頭の中で瞬時に理解し、思わず口を覆った。
ウソ…!
「えっ!マジっスか!相手男っスか!?
いや〜やっぱ社長さすがっスね!神っス!」
俺の言葉に顔を上げた社長は怪訝な顔で俺を見上げる。
「…お前バカにしてんだろ、」
「してないっスよ!やっぱ社長クラスになると性別とかそういうの超えちゃうんスね!
いや、さすがの三浦も驚いたっス!」
つい興奮してしまった俺をよそに、社長は耳をほじりながら顔をしかめている。
「…お前なんかに言ったのが間違いだった。
もういいぞ、戻れ」
「何言ってんスか!
そういうことならお安い御用っスよ!
"恋の瞬間接着剤・三浦家康"にかかればどんな相手だってモノにできるんスから!」
「またそれか。お前の言葉はうさん臭いんだよ!
もういいから出てけ!」
声を荒げながら手であしらう社長に手の平で待ったをかける。
「俺を見限るのはまだ早いっスよ、社長。
今度その人と会える機会はあるんスか?」
「っ、来週の…月曜だ、」
「あと三日っスね…わかりました。
お任せください、この三浦が秘策を伝授するっス!」
力強い眼差しでそう言ってから社長の側に行って耳打ちする。
「これって…社長と三浦だけのトップシークレットっスよね?」
顔を離して社長の手をぎゅっと握り満面の笑みを向けると、眉をひそめながらも満更でもない顔を俺に向けてくれた。
よし…!
これでまたひとつ社長の座に近づいた!