例えばこんな日常
第7章 99.9%難しい恋/MO
じっと俺の言葉を待つその瞳に捉われて、口だけがパクパクと動いてしまう。
えっと…
つまり…その…
「…す、好きな人は…いない、ってことか…?」
やっと出た言葉は、今度こそ聞こえたはずだ。
ぎゅっと唇を噛み締めてその答えを待つと。
「…えぇ。いませんけど、」
まっすぐこちらを見つめたまま、すらっとそう言った。
その答えに、心の中で会心のガッツポーズをする。
よしっ…!
ならば次は…
「それ…どういう意味です?」
三浦メモを頭の中で振り返っているところに、ふいにヤツが呟いた。
「好きな人はいませんけど、だとしたら…
鮫島さんになにか関係あるんですか?」
いつものヘラヘラ顔で楽しそうに聞いてくる。
こっちのテンポで進めようとしてたのに、予想外のヤツからの質問に一気に汗が出てきた。
おちょくるようなその目にすら、どきどきしてしまって。
「僕のこと、そんなに気になります?」
「っ、ちがっ…違う!」
「では質問を変えます。
鮫島さん…僕のことどう思ってます?」
いつのまにか目の前までにじり寄ってきていたヤツに見つめられて、ごくっと息をのみ込んだ。
…こ、これは、
もしや…
今なのか!?
「…俺は、」
口を緩く結んでにやにやしながら俺を見つめてくる。
その目に促されるように、震える唇を小さく開いた。
「…君がっ…す、す…」
間近でじっと見つめられたこんな状況で、すんなりそんなこと言えるわけがない。
あと一文字が出せずわなわなしていると、目前のヤツが堪えきれずにぷっと吹き出した。
え…?
訳が分からず目を丸くする俺から視線を外さずに、形の良い薄い唇がゆっくり動く。
「…メダカみたい」
「……え、」
「メダカみたいですね、鮫島さん」
…っ!
そう言ってまたニッと口角を上げた笑顔に、完全に撃ち抜かれて。
気付いたら、誘われるようにその赤い唇に近づいていた。
その間、数秒。
我にかえると、目前にいたはずのヤツはソファに座り込んで呆然と口元を押さえていて。
ゆっくり向けられたその顔は、明らかに動揺していた。
…間違えた。
やってしまった…
やってしまったあぁぁぁー!