例えばこんな日常
第10章 あなたと居る特別/SM
それから特別なにをするわけでもなく、録画してる番組を観ながら飲んでつまんで。
初めこそ『なんか企んでんだろ』なんて怪しまれたけど、至って普通に流れる時間に翔くんもすっかりリラックスモードで。
メンバーの番組は大体チェックしてるけど、翔くんのこの番組は毎週欠かさず観ている。
「…あ、俺また嫌われてる」
「ふは、もうさぁ、これネタみたいになってんのよ」
「ふふっ、名前だけでいうと準レギュラーだよね俺」
「いやほんと、誰よりも話題に出てるよ」
画面から流れてくる笑い声が、いい感じに酔いが回ってきてる俺たちをその渦に誘い込むようで。
「ほんとはどう思ってんですか?」
「ん?」
「俺のこと嫌いなの?」
できるだけ真剣な顔を向けたつもりだったけど、据わった目は見透かされていて。
「なに言わせようとしてんだよ」
「…ふふっ、ねぇどうなの?
俺のことどう思ってんの?」
尚も翔くんに寄り掛かって食い下がると、酔いなのか恥ずかしいのか分からない赤い顔でこちらを見て。
「…そんなの言わなくても分かんだろ。
何年一緒にいんだよ」
「ふふ、なにそれ。熟年夫婦じゃないんだからさ」
「そんなもんだろ」
さらっとそんなことを言う横顔を窺い見て、なんだか無性に翔くんが愛おしくなって。
「俺が奥さん?」
「…うん、奥さん」
「翔くんが旦那さん?」
「俺?うん…だんなさん、」
わざと至近距離でじっと見つめていると、視線に耐えられなくなったのか翔くんが俺に振り向く。
「~っ、おい、ビール!」
「あはっ、亭主関白っ!」
俺を振り払うように身動いで、照れ隠しにそう言い投げる。
翔くんにこんな顔をさせられるのは、きっと俺だけ。
そうやって自分で口走った言葉で墓穴掘っちゃうとこ、見逃してやったりなんかしないから。
何年一緒にいると思ってんの?
って、こっちのセリフだよ。
空のはずのビールをぐっと煽る翔くんを見遣って、どうしても零れてしまう笑みをそのままにキッチンへ向かった。