例えばこんな日常
第10章 あなたと居る特別/SM
「あ~夜風が沁みるねぇ」
「くくっ、おっさんみたい」
そのあとも、番組を見ながら一頻り喋って飲んで。
冷蔵庫の缶ビールが残り一本ずつになったところで、翔くんがベランダに出ようと言いだした。
昼間はまだ暑さが残るものの、すっかり夜も更けたこの時間は随分と過ごしやすい。
柵に取り付けられたカウンターに並び、立ち呑みスタイルで再度乾杯をする。
今年の夏も、駆け抜けたなぁ。
気付けばまた一つ、歳も取った。
こんな歳になっても"末っ子"なんて言われて、メンバーからも『もうそんな歳になったの』って毎年驚かれるのが恒例になりつつある。
だけどそれが…
なんか、心地良かったりもするんだよね。
「…潤さぁ、」
「…ん?」
頬杖をついてぼんやり物思いに耽っていると、隣の翔くんがぽつり俺を呼んだ。
「今年なに欲しい?」
「え?」
「誕生日まだだったろ」
カウンターに腕を組んでビールをちびちび飲みながら、少し眠そうな瞳でそう告げられて。
そう、今年は翔くんからのプレゼントがまだだったんだ。
毎年このやり取りを積み重ねてきたけど、欲しい物ってそんなに更新されない。
どうしても、身につける物や実用的な物に偏ってしまって。
「…じゃあ、あの隣に置く新入りが欲しい」
「ん?どれ?」
「あれ」
「ふはっ、やめろ!いくらすると思ってんだよ、」
「え、そんなにしないよ?そのくらい余裕でしょ?」
「ふざけんなって、俺じゃなくて香川さんに買ってもらえ!」
一瞬で眠気が覚めたようにはっきり拒否する翔くんと、肩を揺らして笑いながら"買って"、"買わない"の押し問答。
あの時買った桜はひとときの春をもたらしてくれて、今はもう新しい芽を誇らしげに携えている。
ベランダの一角に彩りを湛えるその姿に視線を移し、思いついたことをそのまま翔くんに伝えた。