和服男子に恋されて
第2章 アプローチ
「……出来ました。これでもう大丈夫だと思います」
着物の袖を縫い終えると、弥子はローテーブルと龍一の前に座ったまま裁縫道具に針と糸を直しながらそう言った。
縫っている間も、弥子の緊張は収まる事を知らず。
たまに龍一から話し掛けられることもあったが、自分が何と答えているのかも分からないぐらい頭が真っ白で。
一度も龍一の顔を見ることが出来ないまま、五分程の間ひたらす手を動かすだけだった。
そんな弥子とは真逆で相変わらず龍一はのほほんとニコニコしているが。
「ありがとうございます。流石弥子さん、裁縫も得意なんですねぇ」
「……じ、じゃあ私、部屋に戻りますので」
その場に立ち上がろうとする弥子の腕を突然掴むと、自身の方へ優しく引き寄せる。
そして両腕で弥子の体を優しく包み込むと、穏やかな声を弥子の頭上で降らせた。
「まだ帰しませんよ?」
この状況に、弥子は龍一の胸に顔を埋めたまま絶句するしかなかった。