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素晴らしき世界

第15章 それはやっぱりあなたでした

「おかえりー」

俺が待ち望んでいた人ではなかった。

「何だ、お前かよ……俺の気持ちを返せ」

思わず心の声が漏れる。

「えっ?もしかして彼女だと思った?」

ニヤニヤしながら
ビールを片手に玄関に近づいてきた。

『そうですけど、何か問題ありますか?』
って言ってやりたかったが、言える訳もなく……

「人のビール飲んでんじゃねーよ」

手に持っている缶ビールを奪ってやった。

「ケチだなー、兄貴は」

俺は残っていたビールを一気に流し込んだ。

「で、なにしに来た……潤」

潤「そんな嫌な顔しないでよー。
せっかく可愛い弟が会いに来たんだよ?」

舌を出して小首を傾げる。

「可愛くねーし、誰も頼んでねーよ」

でも少しホッとしている。


1人で過ごすよりはマシだから……


潤「兄貴に頼みがあって……」

「金なら、貸さねーよ」

潤「ちげーよ……」

下を向き、言葉を濁す。

いつもは歯切れのよい物言いの潤。

今日はいつもと様子が違う……

「何かあったのか?」

暫くの沈黙が俺の不安を煽る。

潤「……実は、
一緒について来てほしいんだ」

「どこに?」

また沈黙が訪れる。

一体どこにだよ……

悪い事ばかりが頭に浮かぶ。

潤「……定食屋さん」

「はっ?」

潤「だから、定食屋!」

「お前な……
定食屋くらいさっと言えよ!
何かあったと思っただろーが!」

潤「あるわけねーだろ」

「じゃあ、何でスッと言わねーんだよ!」

潤「それは……」

「ちゃんと言わねーと、ついてかねーぞ!」

潤「わっ、わかったよ!
会いに行きたいヤツがいるんだよ……」

顔を真っ赤にして答える潤。

そんな潤を揶揄おうと

「まさか、好きなヤツだったりして?」

冗談でニヤニヤしながら聞いてみたら、
さっきより顔を真っ赤にさせた。

「えっ……図星?」

潤「わりーかよ」

照れを隠すように
頭をワシャワシャと掻きむしる。

「別に俺と行かなくてもいいだろ?
1人で行けば……」

潤「定食屋に若いヤツが一人で行ったら
変だろ?浮くじゃん?兄貴とだったら、
違和感なく行けると思って……」

どんどん語尾が小さくなっていく。

「わかったよ。
明日、一緒に行けばいいんだろ?」

潤「マジで?いいの?」

「その代わり、奢れよ?」

潤「ありがとう、兄貴」

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