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素晴らしき世界

第18章 What is the most stupid thing?

あの日1人で泣きながら入ったお風呂。

でも今は2人で入っている。

湯船の縁に顎を預け
まーくんが髪の毛を洗うのをジッと見る。

「いってぇー」

ワシャワシャと髪を洗うと、
泡が増えて顔へと流れていく。


でも俺の視線は髪を洗う指に向かう。


「ねぇ、相葉くん」

不安からか呼び方が昔に戻る。

「ん?」

俺の声に必死に目を開けて
こっちを見ようとするけど、
泡が沁みてすぐに閉じてしまう。

「そのまま聞いて……」

俺の言葉のトーンで何かを察したのか
手の動きを止めた。


「その指輪……どうしたの?」


お互いの気持ちを確かめて、
身体を重ねたけど……

彼女がいるんじゃないかって
勘ぐってしまう。

「あーっ、忘れてたっ!」

浴室に相葉くんの声が響いた。

慌ててシャワーのノズルを捻って、
髪についた泡を流した。

手で顔の水滴を拭うと、
ボディーソープを出し指に馴染ませた。

そして指輪を思いっきり引っ張る。

「んー、抜けろっ!」

言い終わると同時に、
指から指輪が抜き取られた。

「はぁ、良かった……」

マジマジと指輪を見つめる相葉くん。

「あっ、これ弟のなの」

「へっ?」

自分でも笑えるくらい情けない声が出た。

「昨日の飲み会の前に実家に寄ってね。
その時、裕介が嬉しそうに指輪見せながら
『ペアリングなんだ』って自慢して……」

相葉くんの家に遊びに行ったときに、
弟の裕介くんを何度か見かけた。

相葉くんと一緒で
明るくて、元気いっぱいの弟。

はしゃぐ姿が目に浮かんだ。

「余りにも自慢してくるから腹立って、
指輪奪い取って俺の指に嵌めたの」


まさか……

そんな漫画みたいなことあるの?


「じゃあ、抜けなくなっちゃった」

てへっと舌を出しながらはにかんだ。


普通ならイラつく笑顔だけど、
彼女じゃなかったって思うとホッとした。


「もしかして……妬いた?」

その言葉に思わず湯船の中で
身体を縮こませた。

パシャンと水の音が聞こえると、
背後に身体を滑らせ俺を包み込む。

あの日、広くて寂しいと思った湯船は
今日は窮屈で……

幸せが湯船のお湯のように溢れていた。

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