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素晴らしき世界

第18章 What is the most stupid thing?

「はい、お水」

腰が痛くてソファーに身を預けている俺を
ニヤニヤしながら見るまーくん。

「ありがとう」

手を伸ばしてペットボトルを受け取った。

お風呂から上がっても、
まーくんの頬は緩みっぱなし。

よほど俺が指輪の事を
気にしていたことが嬉しかったようだ。

「ねぇねぇ、あと何か
気になってることないの?」

ソファーに座ったと思ったら、
お尻をクネクネ動かしながら
ぴったりと隙間なく俺に近づき寄り添った。

「ねぇ、ないのー?」

言葉を催促するまーくん。


まーくんと離れた日に記憶を戻す。

あっ、そう言えば……

「あの日……
何で俺ん家に来ようと思ったの?」

「あの日?」

まーくんは首を傾げつつ記憶を辿る。


「俺が引っ越しした日」


本当は違うんだけどね?

引っ越しした日だけど、
その日はまーくんの誕生日だった。


『おめでとう』って言えなかった日。


「あっ、あの日か……
史上最悪の誕生日だった」

そうだろうとわかっていても
まーくんの口から当時の心境を聞くと
胸がチクリと痛くなる。

「実はね……
クリームパンを渡そうと思って行ったんだ」

「クリームパン?」

「覚えてる?小学生の時、親戚に貰った
クリームパンをかずにあげたこと」


そう言えば、食べた記憶がある。


少し小さいけど、
クリームがいっぱい詰まってた。

「あの日、その親戚が家に来て
クリームパン持ってきてくれたの。
かずが『美味しい』って言って
たくさん食べてたから届けたくて……」

まーくんをチラッと横目で見ると
頬の緩みはなくなり寂しい顔をしていた。

「って、そんなのただの口実。
会いたかった、話をしたかった。
『誕生日おめでとう』って、
言って欲しかったんだ、かずに……」

「ごめんね……」

昔の出来事だけど、
今もまーくんの心に影を落とす。

あの時の自分の行動を後悔した。

だけどあの時は、こうするしかなかった。


でも、そんな思いはもうさせない。


まーくんの手に俺の手を重ねた。

「かず?」

不思議そうに俺の顔を見つめる。

「誕生日、おめでとう」

今日じゃないけど……

何年越しかのお祝いの言葉と
これが本当の誕生日プレゼント。

頬を手で包んで唇を重ねた。

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