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素晴らしき世界

第20章 2人の怪獣

「もう……まだ怒ってるの?」

相葉さんの問いかけに無視を決め込み、
車の窓から流れる景色を見る。


ずっと見てきたこの景色。


そして、運転する相葉さんの姿。


背筋をピンと伸ばし、
教習所で教えられた通りの
正しい姿勢で運転する。

ハンドルを握る手の甲には、
うっすらと血管が浮き出ていて、
綺麗な手だけど男らしさを感じる。


「何、見てるの?」

運転してるはずなのに……

前方を見つめたまま話しかけてくる。


「見てません……」

また、外の景色を見る。


あっ、このお店……


相葉さんの家に行く最終の目印。


ここを曲がれば、もうすぐ目的地に到着。


駐車場に着くと、ようやく目線が
前方から俺に向けられる。

運転する姿は好きだけど、
やっぱり見つめるだけじゃなくて、
見つめられたい。

「ふふっ……嬉しそうだね」

当たり前じゃん……嬉しいに決まってる。


「それは相葉さんでしょ?」

でも、言葉には出来ない。

恥ずかしさをいつまで経っても
乗り越えることが出来ない。

「そうだね、嬉しい」

毎回、落ち込みそうになる俺を
相葉さんのストレートな言葉が
救ってくれる。

そして、俺の気持ちを汲み取ってくれる。

寂しかった手をギュッと握ってくれた。

相葉さんを見つめると、
嬉しそうに笑って俺の手を引いて歩く。


何で、俺の気持ちがわかるんだろう……


「もう……今日はどうしたの?
俺のこと、見過ぎじゃない?」

テレビを見てるはずなのに、
また俺の視線に気づいてこっちを見る。

そして手がゆっくりと俺の顔を包む。


キス……されるのかな?


目を閉じようとした瞬間、
頬を摘ままれビョーンと伸ばされる。

「ひぃたぃひぃ、にゃにぃしゅるの」

「だって、難しい顔してるから」

面白がってる姿と、キスされると思って
身構えた恥ずかしさに視線が下がる。

「かーず」

愛しそうに……優しく俺を呼ぶ声に
顔をあげると、チュッとキスが落とされる。


まただ……

どうして?

キスを待ってたのがわかったの?

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