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素晴らしき世界

第21章 嫌いの向こう側

大一番の勝負は引き分けだった。

引き分けになるくらいなら
負けた方がよっぽどよかった。

こんな風に思う自分に驚いている。


俺って、負けず嫌いな筈なのに……


ハワイでのデビュー会見に向けて、
みんなで船に乗り込む。


ボーっとしている大野くん。

状況がまだ理解できず、
回りをキョロキョロ見てる相葉くん。

そして、何やらコソコソと話している
翔くんとアイツ。


俺にとって翔くんは憧れの存在だった。

勉強と芸能界の両立をしっかりしてて。

何事にも全力で取り組んでいたから……


なのに……どうして?
アイツと喋ってるんだよ……

少し聞き耳を立てると

「ヤバいよ……どうする?」

「もう、逃げられないよ。
覚悟、決めないといけないかもね……」


……覚悟?

もしかして、翔くんはデビューに
乗り気じゃないの?


周りを見渡して、気が付いた。

今、ここの船に乗っている5人は、
同じ方向を向いてなかった。

船はどんどん沖に向かって力強く進んでいく。

けど『嵐』という俺たちの船出は
今にも沈没しそうなくらいバランスが
取れないまま前に進んでしまった。


デビューしてからすぐに、
バレー中継で早朝から番組出演、
握手会、そしてファーストコンサート。

目まぐるしく日々を過ごしてた。


『嵐』なって最初のドラマ出演は、
アイツだった。

けど、アイツが出演したから
嵐の曲がドラマで採用されたんだ。


でも、感謝なんてしてやるもんか。

……俺は絶対に負けない。


嵐になって初主演は俺が勝ち取った。


アイツに負けてたまるか。


その気持ちをエネルギーに変え、
寝る間を惜しんで仕事に打ち込んだ。

疲れる身体にムチを打つように
デビューしてから必死に走り続けた。


けど、忙しい日々はあっという間に終わった。


最初の方はフレッシュさもあって、
人気はあった。

でも、そのメッキはすぐに剥がれていって、
人気も下降していった。

テレビに出演することも少なくなった。

コンサートは毎年あったが、
空席が目立つようになってきた。

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