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素晴らしき世界

第27章  勝手に挑戦、受けて立つ【交流戦第二試合】

「お待たせしました、生です」

何杯目かのビールを受け取ると、
空のグラスを従業員さんに渡した。

「おいっ、大野」

「ん?」

グラスを傾けたまま声の方に顔を向けると、
課長が足元の覚束ない松本を支えてた。

「あ~、お~のしぇんぱ~い」

「うわっ!」

可愛い笑顔を俺に向けると、
倒れ込むように抱きついてきた。


いつもの力強い眼差しや
ハキハキと喋る口調はどこへやら……

声もワントーン高くなって呂律も回ってない。


「これ……なに?」

俺の腰に巻き付いて離れない松本を指差す。

「知るかよ!」

ドスっと俺の隣に座る課長。

「それ、くれない?」

少しだけ飲んだビールを見つめる。

「いいですよ」

「もう、今くらい敬語止めてよ」

「そんな訳にもいかないでしょ?櫻井課長」

「あっ、翔ちゃ~ん」


相葉ちゃんはもう無礼講にしてるのね?


「って、ことで敬語禁止ね?」

「わかったよ、翔ちゃん」


櫻井課長こと翔ちゃんも俺たちの同期。

まぁ、出世街道を爆走中。


俺たちの希望の星だよ……


「二宮もダウン?」

「まぁね……」

フラフラになった二宮を連れてくると、
自分の膝の上に寝かせた。

「あ~ばせんぱ~い」

「ん?なに?」

「ごめんにゃしゃい」

「いいよ、休みな?」

愛おしそうに二宮の髪を撫でる相葉ちゃん。

うちの松本は抱きついたまま、
ピクリとも動かない。

「おーい、松本。大丈夫か?」

俺の声にモゾモゾと身体を動かすと、
ゆっくりと顔だけ上げた。

「すみましぇん、めーわくかけてぇ」


俺も酔っぱらってんのかな?


潤んだ目で見つめる姿はまるで、
怒られてしょぼんとしている仔犬の様。


いつもはしっかしてて『THE男前』な
松本が可愛く見えて仕方がない。


これがギャップってやつか?


って、その前に松本は男じゃん!


「お~のしぇんぱい?」

小首を傾げて俺を見つめる。

「大丈夫だよ、ゆっくり休め」

相葉ちゃんみたいに俺も松本の髪を撫でると、
人懐っこい笑顔を向け再び腹に顔を埋めた。

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