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素晴らしき世界

第28章 勝手に挑戦、受けて立つ【交流戦第三試合】

総体当日。


俺はエースナンバーを背負って
ピッチャーマウンドに立っている。

ファーストには二宮。

いつもの様にマウンドを足で整える。


落ち着け……落ち着け……

天を仰ぎながら大きく深呼吸する。


「相葉先輩」

振り返ると内野のボール回しを終えた
二宮が立っていた。

「いつでも俺……投げれますからね」

くすっと笑いながら俺にボールを差し出す。


普通、後輩なら激励の言葉だろ?


でもいつもと変わらない勝ち気な態度に、
緊張で固まった身体が解れていった。

「二宮には投げさせねーよ」

ニヤリと笑って見せ、
ボールをグッと握りしめて受け取った。


『プレイボール』

審判の声で俺はセットポジションを取る。

俺の1球目は練習同様、
ミットを構えたところに吸い込まれる。

テンポよくボールを投げていく。

外野フライでワンアウト。

三振を取ってツーアウト。

次のバッターはファウルで粘る。


くそっ……


焦りから吹き出してきた汗を拭いながら
ふとファーストに目をやると
二宮が俺をじっと見つめていた。


『次でアウトを取れる』

二宮がそう訴えている気がした。


絶対にいける!


バットに当たったボールは内野に転がった。

ファーストに投げると二宮がきっちり受け取った。


スリーアウト、チェンジ。


それからもピッチングは
いつも以上に調子は良かった。



俺の後ろには二宮がいる。


ピンチになるとマウンドに駆け寄り、
特に声をかけることなくボールを渡す。



いつも後ろには二宮がいて
俺の背中を追いかけた。


いつも隣には二宮がいて
何も発することなくピッチング練習をしていた。


チラッとファーストを見ると、
二宮の目線は俺の背中にあった。


俺は負けられない。

二宮の前では勝ち続けなきゃいけないんだ……


けど対戦相手は強豪校。

簡単に点を取らせてはくれない。

簡単にスリーアウトにはさせてくれない。

ボールは簡単に外野に飛び、
ヒットを量産していく。

ホームベースに回を追う毎に
相手チームの歩が踏まれていく。



そして俺はピッチャーの交代を告げられた。

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