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素晴らしき世界

第28章 勝手に挑戦、受けて立つ【交流戦第三試合】

二宮がピッチャーマウンドに駆け寄ってくる。


2番手として……


二宮は俺の目を見ることなく、
俺のならしたマウンドを
自分が投げやすいように足で整える。

「二宮」

足が止まるのを見計らって声をかけた。

「はい」


ようやく俺を見てくれたのに……


自分自身の不甲斐なさに、
思わず目線を下に落としてしまった。

でも、ちゃんと伝えなきゃいけない。


こんな状態で二宮を
登板させてしまった事への謝罪を……


「悪かっ……」

「俺はそんな言葉、聞きたくありません」

「えっ?」

顔を上げると二宮の目線は俺から
ネクストバッターズサークルにいる
相手チームを見ていた。

「点数は取らせない。全てアウトを取って見せます。
相葉先輩に……ありがとうって言わせて見せます」

そして二宮は投球練習を始めた。


パンッ…


いつもの捕球音が響く。


俺の弱気な心も一緒に弾け飛んだ。


「じゃあ……頼むぞ。守備は任せろ」

「はい」

二宮の返事を背に俺は守備についた。


プレイ再開。


二宮が投げるときはいつもベンチにいる。


初めて見る二宮の背中。

俺より背も小さくて細身なのに……


大きく感じた。


後輩なのに頼もしく思えた。

いや、実際に頼もしかった。


際どいところを攻め、三振を積み重ねる。

いつもよりボールにスピードが出て、
緩急がより際立っていた。



だから俺も負けたくなかった。



守備でも打者でも必死にボールに食らいついた。


俺だけじゃなく、チーム全員が……



『ゲームセット』

審判が試合終了を告げた。


3年生最後の夏。

いつも以上の力が出るのは相手チームも同じ。


広がった点数を埋めることは出来なかった。



俺の……

俺が二宮と一緒に過ごす夏が終わった。



そして最後のミーティング。

3年が後輩に感謝を伝える。

「最後はキャプテン、相葉」

監督の言葉で俺はみんなの前に立った。

「みんな本当にありがとう……」

纏まりのない俺の言葉を自分の顔を脚に埋めて
体育座りをしている二宮以外は真剣に聞いてくれた。

「二宮」

「はい」


情けない顔してんじゃねーよ。


「次は……勝てよ」

「はい!」

やっぱり二宮には、自信に満ち溢れた顔が似合う。

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