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素晴らしき世界

第30章 僕らの48日間

「もしもし…っ」

『あっ、もしもし……今、大丈夫?』

切れると思って慌てて出たから、
ニノは用事中と捉えたみたい。

「うん、大丈夫。どうしたの?」

『もう、家に帰ってきた?』


何で予定を把握してるんだって思ったけど……

確か昨日もニノから電話あって
『明日帰る』って伝えたんだよな。

「うん、さっき帰ってきたとこ」

『あっ、ごめん。疲れてるよね。じゃあ……』

「ちょっ、ちょっと待って!」

電話を切ろうとするニノを
何とか思い止まらせる。


ニノって目の前にいる時はガンガンくるのに、
電話になるとよそよそしい。


というより……

きっと表情が見えないからこそ
気を遣っているんだと思う。


懐に入るのが上手いってイメージあるけど、
ちゃんと空気を読んでるからこそ可能なんだ。


「何か、用事あったんでしょ?
逆に気になって寝れないよ」


昨日の電話も何だったのか気になるし、
きっと用件は同じだろうから……


『あのさ……良かったら……
明日……ご飯、行かない?』

「えっ?」

『だからご飯、行かないって言ってるの!』

俺は滅多にない誘いに驚いて発したんだけど、
ニノには聞こえてないと伝わったみたい。


それも無理ないか。

自分でもたどたどしいって
気がついてるからやけくそになってる。


ふふっ、可愛い。


そんなニノからの嬉しすぎる誘いに
ハイテンションで『うん』って
応えたいのに……


「ごめん、明日先約があるんだ」

「……」

返事がない。

もう……しょんぼりしちゃったじゃん。


伊野尾!

何で、明日メシに俺を誘ったんだ!


もしニノからの誘いが
無くなったらお前のせいだぞ!


「わかった。疲れている時にごめんね?
じゃあ、おやすみ!」

「ちょっ、待って」

電話を終える言葉を告げると、
俺の制止も虚しく機械音が繰り返される。


年男なのに……

新年早々、ワンチャンスを逃した。

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