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素晴らしき世界

第30章 僕らの48日間

「ちょっとこれ、タコ入ってない!」

「入ってないならこれ食べろ!」

ブツブツ文句を言う口に、
ぶつ切りしてあるタコを突っ込んだ。

「やめろやー」

文句を言いながらもモグモグと食べ進める。

ニノもお腹が空いていたらしく、
作ったたこ焼きはどんどん減っていく。

「もう、ニノも作ってよ」

オデコに沸き上がる汗を拭いながら、
クルクルとピックでたこ焼きを回転させる。


今って……真冬だよな?

ってか、招かれたのは俺だよね?


「仕方ないですね。じゃあ、貸してください」

手を伸ばしてきたニノにピックを渡した。

「やったー!よし、食う……」

「ビール切れたんで、よろしく」

ニヤリと笑いながら、
空の缶を手に持って揺らす。

「……へーい」


動くのが面倒くさかったな。


俺は重い腰を上げて冷蔵庫に向かった。

「ふぅー、涼しい」

冷蔵庫の冷気で熱い身体を冷ます。

「ちょっと、電気代!」

「これがたこ焼きのバイトだったら、
この電気代分は余裕で働いてるわ!」

ビールを手に取ると、
バンと勢いよく扉を閉めた。

「それよりビール、まだですかー?」

「はいはい、わかりましたよ」

テーブルに戻ると
俺の皿の上に真ん丸としたたこ焼き。

「上手すぎねぇ?」

「俺がやればこんなもんですよ」

得意げな顔で
俺の差し出したビールを受け取った。

「どーぞ、私の特製たこ焼き召し上がれ」

「じゃあ、いっただきまーす」


パクッと頬張ると口に広がったのは痛み。


「何だよ…ごほっ、これ」

「これかなー?」

ニノの手にはからしのチューブ。

「ふざけ…ごほごほっ」

苦しむ俺を無視して、
ニノはパクッとたこ焼きを口に放り込む。

「うそ……げほっ、辛いっ!」

どうやら間違って
からし入りのたこ焼きを食べたみたい。

「ざまーみろ、げほっ」

「ごほっ、うる…さい」

涙を流しながら俺たちは笑った。


こんなに2人で笑ったのは久しぶりかも。


やっと……日常に戻ったんだな。

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