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素晴らしき世界

第30章 僕らの48日間

「ねぇ、和」

唇を離すと再び下を向かないように、
頬を手で包んで動きを止めた。

「名前で呼んでよ」

友達の期間が長かったし、
メンバーでもある俺たちは
ずっと同じ呼び方をしていた。

「一緒に住むんだし……
恋人らしくするのもいいじゃん。
ほら、何でも形からって言うでしょ?」


恋人だけど……

今まではメンバーとしての立場を優先してた。


でも今日からは……

恋人としての俺たちを優先したい。


「いっ、嫌です!」

顔を逸らす事の出来ない和は、
目だけを逸らす。

「うーん、なんて呼んでもらおっかな?」


拒否されるなんて事は想定内。

こんな時は無視するのが一番。


「雅っていうのは違うな。
やっぱり雅紀の方がしっくりくるな。
昔みたいにまぁくんって言うのも……」

「ちょっと勝手に決めないでよ!」


ふふっ、引っかかった。

まぁくんなんて恥ずかしくて言えないもんね?


個人的には久しぶりに呼ばれてみたいけどね。


「だって和が何にも言わないから、
俺の好きな呼び方でいいかなって」

そして大袈裟に首を傾げながら
悩むフリをする。

「まぁくんて呼ばれるなら、
俺は和くんって呼ぼうかな」

「止めろ、バカッ!」

ペシっと頭を叩かれる。

「痛ってぇぇぇ。
じゃあ、なんて呼んでくれんの」

叩かれた頭を押さえながら和の答えを待った。

「ふみくんでどう?それともふみお?」

クスクス笑いながら、可愛く名前を呼ぶ。


そんな逃げ方、想定してないぞ。


「ふーみくん」

「おいっ、止めろ!
事務所にまた怒られるだろ!」

結局甘い雰囲気も、
いつもの俺たちに戻ってしまった。


まぁ……いっか。


「俺は怒られないもん」


そうなんだよな。

呼ばれている俺が何故か怒られた。


「ご愁傷様……雅紀」


えっ?


パッと顔を上げると、
和は得意げに俺を見て笑った。



やっぱり……和には敵わない。

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