テキストサイズ

素晴らしき世界

第31章 向かい合わせ

「今日、サービスdayなんですよ。
だから、結構混んでる !」

続々と入ってくる人に
戸惑っている様子だったから声をかけた。

でもなぜか反応はなく、
ただ俺の顔をポカンと見るめる。

「あっ!やっちった…
気を付けなきゃっていつも思うんですけどね…」

いつもの癖で、顔までおしぼりで拭いていた。


だって誰も見てないし、誰も注意しない。

ずーっと一人だったから。


「ウフフフ」

沈みそうになった気持ちが、
我慢できない笑い声で浮上する。

「いや、笑わないでよ!マジで!引いた?
引くよな…いやぁ~参ったな。なんか、
カッコわるいとこばっかり見られちゃって」

「カッコわるいなんて…ただ…アハ、アハハハハ!」

「めっちゃ、笑ってるじゃん!!!」


こんなに笑っている人を見たのはいつぶりだろう。

それに釣られて一緒に笑うのもいつぶりだろう。


「なんで、焼き肉なんですか?」

「最近、外食が多くなって…
ここ、昼間のランチで先月来たんですよ。
結構美味しくて。値段も手頃だし。
しかも、月イチでサービスdayがあって。
アイスクリームがタダなんですよ!」


なに俺、熱弁してるんだろう……


『美味しい』『値段が手頃』『サービス』

俺に沁みついた惹かれるワード。


それが1人であっても変わらない。


「そうなんですね。アイスクリームか…
だんだん、美味しい時期ですからね」


『アイスクリームが美味しい季節だね!』

雅紀の言葉がふっと頭を過った。


……えっ?

雅紀がいないのに、
笑っている雅紀が目の前にいる。


俺に向けてくれていた……笑顔。


でもその笑顔は一瞬で元の人の笑顔へと戻った。


「ん?」

「いや、えーと、その…可愛いなぁ…と…」

素直に思ったままを答えた。



でもそれは誰に対してなんだ?



目の前の人の笑顔なのか……

それとも目の前の人に重ねられた
雅紀の笑顔なんだろうか。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ