
素晴らしき世界
第31章 向かい合わせ
「焼けたかな?…まだか…」
独り言を呟きながら、
手持ち無沙汰に肉を何度もトングで裏返していく。
「あの…そんなに触らなくても大丈夫ですよ?」
「へ?あ、そうだよね。ごめん…」
「いや、気になりますよね!焼けたか!」
パッと笑顔になったけど……
それは何かを振り払っているように見えた。
やっぱり俺と同じで隠す事ができないんだ。
トングを置き取り繕うのを止めると、
大きな溜め息が漏れた。
「どうか…しました?」
「いや、すいません…
なんか、俺、本当にダメな奴で…」
上がっていく煙のように、
奥にしまっておいた気持ちが浮上していく。
「言わなくても分かってよ!って言うのは
どういうことなんでしょうか…」
離婚届を突きつけられる前に雅紀が叫んだ言葉。
共働きだったから不得意な部分が多かったけど、
家事で自分ができる事は手伝った。
忙しいのはお互い様だから
何かを強制する事もなかったし、
何かが出来ていなくてもそれを責めなかった。
自分なりに空気を読んで
雅紀と暮らしていたつもりだった。
雅紀はこれ以上、俺に何を望んでいたんだ?
「口にしてくれなきゃ、俺はあいつが
何を考えてるのかさっぱり、分からない…」
雅紀にずっと言えなかった事を吐き出した。
目の前の人に救いを求めた。
目の前の人に答えを求めた。
「俺たち、ないんです…ずっと…
どんなに言っても俺のこと見てくれなくて…」
でも返ってきたのは応えじゃなくて、
悲痛な心の叫びだった。
そして堰を切ったように目から零れ落ちる涙。
「こんな話、するもんじゃないって
分かってるんです…でも、でも、俺…」
俺はスッとおしぼりを差し出した。
目の前の姿は完全に自己を投影していた。
羨ましかった。
きっとどこかでプライドが邪魔して、
自分の弱さを曝け出す事なんて出来ない。
昔は『カッコ悪い』なって思ってた。
でも今は……
独り言を呟きながら、
手持ち無沙汰に肉を何度もトングで裏返していく。
「あの…そんなに触らなくても大丈夫ですよ?」
「へ?あ、そうだよね。ごめん…」
「いや、気になりますよね!焼けたか!」
パッと笑顔になったけど……
それは何かを振り払っているように見えた。
やっぱり俺と同じで隠す事ができないんだ。
トングを置き取り繕うのを止めると、
大きな溜め息が漏れた。
「どうか…しました?」
「いや、すいません…
なんか、俺、本当にダメな奴で…」
上がっていく煙のように、
奥にしまっておいた気持ちが浮上していく。
「言わなくても分かってよ!って言うのは
どういうことなんでしょうか…」
離婚届を突きつけられる前に雅紀が叫んだ言葉。
共働きだったから不得意な部分が多かったけど、
家事で自分ができる事は手伝った。
忙しいのはお互い様だから
何かを強制する事もなかったし、
何かが出来ていなくてもそれを責めなかった。
自分なりに空気を読んで
雅紀と暮らしていたつもりだった。
雅紀はこれ以上、俺に何を望んでいたんだ?
「口にしてくれなきゃ、俺はあいつが
何を考えてるのかさっぱり、分からない…」
雅紀にずっと言えなかった事を吐き出した。
目の前の人に救いを求めた。
目の前の人に答えを求めた。
「俺たち、ないんです…ずっと…
どんなに言っても俺のこと見てくれなくて…」
でも返ってきたのは応えじゃなくて、
悲痛な心の叫びだった。
そして堰を切ったように目から零れ落ちる涙。
「こんな話、するもんじゃないって
分かってるんです…でも、でも、俺…」
俺はスッとおしぼりを差し出した。
目の前の姿は完全に自己を投影していた。
羨ましかった。
きっとどこかでプライドが邪魔して、
自分の弱さを曝け出す事なんて出来ない。
昔は『カッコ悪い』なって思ってた。
でも今は……
