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素晴らしき世界

第31章 向かい合わせ

「うちも…うちもそうなりますね…」


今、言える精一杯の言葉。

俺には励ます事なんて出来ないから、
だだ同じなんだと伝えたかった。


でもそれ以上、
俺たちは言葉が出なくて……


苦し紛れに『お酒を飲む』って聞いてみたけど、
静かに首を横に振られた。

ただ黙々と焼き上がっていく肉を食べて、
最後にサービスのアイスクリームを食べた。

長居することなく俺たちはお会計に向かった。

「いくらですか?半分…」

「いや、いいって。ね?ここは。
俺のが年上だから。ね?」

「いや、でも…」

押し問答を繰り返していると、
お会計をする別のお客さんが来てしまった。

俺が折れる形で割り勘で支払いお店を出た。


いつもならお酒も入って
身体は温かいけど今日は少し肌寒い。

「ウフフ。」

突然聞こえた笑い声に
少し驚きつつも目線を向けた。


だって初めて聞いた明るい声。


「なに?俺の顔になんかついてる?」

「いえ。ついてな…アハハハ!」

俺の顔を見て笑い続けるから、
ペタペタと頬を触って確かめる。

無邪気に笑う姿が、
いつかの雅紀と重なった。


雅紀はいつも俺の隣で笑ってくれてた。


ずっと……

ずっと……


「え?なに?なんかついてますか?」

不思議に俺の顔を見つめてくる。

「いや…笑った顔のほうが全然、いい。」


目の前の人も……

そして雅紀も……


「さっき、泣いて打ち明けてくれたでしょ…
すっごく、悩んでるの伝わってきたんだけど…
それよりも、あまりに貴方の顔が綺麗だから…
泣いてる人にこんなこと言って、どうかって話なんだけど…」


でも今、笑えるのは俺だから。

そして俺が笑えるのはあなただから。



だって俺たちは同じ気持ちだから……


「淋しいよね…ずっと、淋しかったんだよね」

雅紀とは違う身長に、
俺は少し屈みながら髪を優しく撫でた。

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