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素晴らしき世界

第31章 向かい合わせ

「いらっしゃいませ、
ご注文が決まりましたらお呼びください」

お冷とおしぼりとメニューを置いて
店員さんは去っていった。

「ごめん、こんなとろこになっちゃって」

お店に気を遣って小さな声で謝る翔。

「ううん、大丈夫。
俺、こういう雰囲気好きだから」


オシャレなカフェというよりもレトロな喫茶店。

この落ち着いた感じが心地いい。


「そう?良かったぁ」

ホッとした表情を見せる翔に
俺も自然と笑顔になった。


いつもはスケジュールをきちんと決めて、
お店をリサーチした上で出かける事が多い翔。

だからこうやって
行き当たりばったりのお店に入るのは珍しい。


でもそれが嬉しかったりもする。



だって咄嗟に
俺を追いかけてくれたって事でしょ?


って俺……
どんだけポジティブ思考なんだろう。

こうやって会えた事自体が偶然なんだから、
元々予定なんて立てられっこないんだよね。


「ふぅー、何……頼む?」

メニューを俺に向けて開くと、
おしぼりで手を拭いた後に顔をゴシゴシ拭き始める。

「ぷっ…」

「えっ?あっ、やっちゃった」

おしぼりを顔から離した後、
クスクス笑う理由を翔はすぐに察した。

「変わんないね」

「いや、さっき走ったから!
普段は、しない……しないかな?」

「そうなの?」

焦ってまた顔をおしぼりで
拭こうとする翔をジーッと見つめた。

「あっ…、もう!早く飲み物、決めよ」

クルっとおしぼりを丸めて置くと、
俺の方にあるメニューを覗き込んだ。

風と共にふわっと届いた香水と少しの汗の匂い。


それは以前と変わらないし、
長い間離れていたって覚えてた。


「ケーキ食べる?」

「えっ?」

「好きでしょ?甘いもの。
飲み物とセットもあるし……いいんじゃない?」


でもそれは俺だけじゃなかった。


「うん、食べる」

俺は笑顔で返事をした。

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