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素晴らしき世界

第31章 向かい合わせ

「ありがとうございました」

店員さんの声を背に、俺たちは喫茶店を出た。

会っていなかった時間を埋めるように
近況やらを話していたらあっという間に
時間は過ぎていった。

「ごめんな、俺から誘ったのに」

「ううん、気にしないで」

途中で松本さんから電話があって
会社へ戻ることになった。


松本さん、そして奥さんの和也さん。

その名前に聞き覚えがあった。


忘れもしない……翔が浮気をした相手。


でも不思議と怒りは起きなかった。

和也さんがいたから、
翔が俺の事を考えてくれた。

和也さんがいたから、
翔が俺を好きだって言ってくれた。


和也さんが翔の中にある
俺の存在を見つけてくれた人だから。


今度もし会えたら、
色々と話ができればいいな。

本当に浮気したかも含めてね?


ピコーン…


「あっ、大野さんからだ」

「……えっ?」

スマホをポケットから出して
メッセージを確認すると、
わざわざ誰から来たのかを口にした。

「大野さんも病院、出たみたい」

「そっか……会うのか?」

喫茶店でも大野さんの名前を出すと、
少しだけ不機嫌になったり
何をしたかとか気になるみたい。


そんな姿を見たくって、
わざと言ってるんだけどね?


「うん、急に飛び出してきちゃったしね」

「それも……そうだな」

納得してない物言いだけど、
会うことは仕方がないと思ったみたい。

そんな翔の姿に
緩みそうな頬を何とか抑える。

「あのさ……電話番号、変わった?」

操作する俺のスマホを見つめる翔。

「ううん、変わってない」


唯一残った俺と翔の連絡手段を
手放す事なんて出来なかった。


「じゃあまた、連絡する。
今日のお詫びに飯でも……行こう」

「うん、連絡待ってる」

『いつにする?』って
聞きたい気持ちをグッと堪えた。


今度は翔の番。

俺を追いかけて……捕まえて?


「じゃあ、また」

「うん、またね」

俺たちは互いに背を向けて歩き出した。


また会う日に向かって……




プルルッ…プルルッ…


「あっ、大野さん?今から会えないですか?
はい……ふふっ、デザート奢りますから」

いっばい話、聞いてもらわなくちゃ。

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