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素晴らしき世界

第39章 愛と浮気のチョコレートケーキ

もう……何なんだよ。


脱力して、ソファーの背もたれに身体を預けた。


嬉しそうに出ていったけど、どこに行ったんだ?


追いかけてなんか……

追いかけてなんか……


「あぁぁぁぁ!」

頭をガシガシと掻きむしる。


立ち上って玄関へと向かおうとしたら、ドアの開く音が聞こえたので俺は再びソファーに座った。


絶対に振り返ってやらないんだからな。


子どもみたいな抵抗だけど、これくらいはしなきゃ気が済まない。


足音が近づいてきたけど、ジッと前を見つめる。


後ろでガサガサと音が聞こえる。


気になる……

見たい……


いや、ダメだ!


パチン…


音と共に家の照明が消えた。


あれ?

真っ暗に……ならない?


前にある窓ガラスに映るオレンジ色の小さな光が揺れている。


俺は思わず、振り返ってしまった。


「えっ?」

ロウソクの灯りに照らされる和也の笑顔。


その手にはチョコレート……ケーキ?



『智、お誕生日……おめでとう」


あっ、今日は俺の誕生日だった。

すっかり、忘れてた。


『ほら……ロウが溶けちゃうから、早く消して?』

ボーっと見つめいた俺は、急いで和也のいる場所に向かうとロウソクの火を吹き消した。


暫くすると、部屋にいつもの明るさが戻った。


『もう……色々予定が狂っちゃったんですよ』

「えっ?」

『本当は雅紀と潤に大野さんを外に連れ出してもらって、その間にお祝いの準備をしようと考えてたんです』

少し拗ねた口調の和也。


そして手に持っていたホールのチョコレートケーキをテーブルに置く。


その瞬間、ひとつの可能性が浮かんだ。


「櫻井さんのところに行ってたのって……」

『ケーキ作りを教えてもらってたんです』


俺が浮かんでいた事と一致した。


『ちょうどタイミングが試作品作りの手伝いと合ったので事情を説明して、松岡さん家に泊まらせてもらってたんです。遅く帰ると仕事で疲れている大野さんを起こしてしまうし、それに……』

その後の言葉が続かない和也。

「それに?」

『早く帰りたくなるから、ケーキ作りに集中できないと思って……』


どこまで俺の事を、和也は想ってくれてるんだろう。


下を向き、耳まで真っ赤になる和也を思わず抱きしめた。

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