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素晴らしき世界

第39章 愛と浮気のチョコレートケーキ

「ありがとう、本当にありがとう」


何度言っても足りない。

『ありがとう』の言葉がちっぽけに感じてしまう。


『予定とは違っちゃったけど、喜んでもらえて嬉しいです』

予定なんて関係ない。

もし当日じゃなくたって、和也に祝ってもらうのが1番嬉しい。

『でも、ケーキも危うかったんですよ?』

「えっ?」

腕に包まれ、俺を見上げる和也と目が合った。

『櫻井さんがわざわざここまで持ってきてくれたんです』

「じゃあ、さっき出ていったのは……」

『ケーキを取りに行ってたんです。だって智が俺を無理やり引っ張るから、櫻井さんが差し出してくれたケーキの袋を受け取れなかったんです』

それで和也があの時、必死に名前を呼んで手を伸ばしてたんだな。

『家に帰った時はケーキを持って帰れなくてイライラして……さっきは怒ってしまってごめんなさい』

「俺こそ……何も知らなかったとはいえ、ごめんね?」

すると見上げていた和也が再び顔を胸に埋め、首を横に何回も振る。

『でも、嬉しかったです。ヤキモチ妬いてくれて……』

嬉しさを表すように、俺の背中に回していた和也の腕に力が入った。

「ホントに?俺……重くない?」

『どうしてそう思うんですか?』


だって……前に喧嘩したじゃん。


「松岡さんとの関係を疑った時は、怒ったでしょ?」

『あれは、余りにもしつこかったから……でも、今回はカッコ良かったから』

「えっ?」

俺の問いかけに和也は回していた腕を解く。

「『和也は俺のもんだ』って……」


どこかで聞いたセリフ……

思い出すにつれて背中から嫌な汗が流れる。


抱きしめていた腕の力が抜けた。


和也は俺から離れ、嬉しそうに見つめる。

『あの瞬間は意味がわからなかったけど、智の話を聞いて嬉しくなりました』

喜んでくれるのは嬉しいし、あの言葉に嘘偽りはない。


けど、確実にヤバイよね。


「俺、櫻井さんに勘違いとはいえ、凄いこと……言っちゃったよね?」

「ふふっ、どうですかね?」

含み笑いをする和也。


櫻井さんには謝らないとダメだよな。


でも……

それよりも先に聞きたくなった。


あの時の、俺の言葉の返事。


和也の琥珀色の綺麗な瞳をまっすぐ見つめる。


「和也は……俺のもの?」

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