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素晴らしき世界

第9章 家族ゲーム Ⅱ

【智side】

眠りから覚め、手探りで温もりを探す。

掌に感じるのはシーツに残る、
ほんの少しの温もりだけ……

気怠い身体を動かし、服を着る。

いつも後処理だけは済ませてくれている。

これか唯一の翔が俺に与えてくれる優しさだ。

寝室を出ると、翔はスエットに着替え
テレビを見ながら寛いでいた。

「ごめん、水貰っていい?」

翔「どーぞ」

俺に目を向けることなく、返事した。

冷蔵庫を開け、
ミネラルウォータを手に取り、
翔のとなりに座った。

翔「計画はどう?」

「現状維持だよ」

翔「次の計画、練らないとな……」

腕を組み、天井を見上げる。

「次の計画って、どうにもならなくない?」

俺の問いかけに翔がニヤリと笑った。

翔「そろそろジジイ、ヤバいらしい」

潤のお母さん、つまりは俺の妻の
お父さんは学校の理事長を勤めている。

代々続く金持ちの家系だ。

しかし妻は本妻の子ではなく、
愛人の子だ。

本妻もすでに死亡し、子どもはいない。

認知はされており、
もしお父さんが亡くなれば
遺産はすべて妻のものになる。

潤との出会いは、
その理事長が勤めている高校だった。

俺はボランティアでその高校を訪れた。

就職の足しになればと思い、翔と参加した。

体育館に入る前に、
先生が俺にこそっと耳打ちをした。

「グループディスカッションのメンバーに
松本潤って生徒がいる。
理事長のお孫さんだから粗相の無いように」

ボランティアと言っても
将来の夢や進路について話したり、
自分達の経験を話すだけ。

俺たちの話を聞いて
高校生が将来に向かって一歩踏み出す
きっかけを作るのが目的だ。

生徒は拙い俺の話にも真剣に耳を傾け、
質問など積極的にしてくれたお陰で
グループディスカッションは無事に終了した。

松「大野さん!」

帰り際、呼び止められた。

松「もし、良かったら
電話番号交換してもいいですか?」

事前に異性との電話番号交換はダメだと
高校側から説明があったが、
同性は問題ないとのことだったので、

「いいよ。何かあったら、いつでも相談して」

メモに電話番号を書いて渡し、
聞いた電話番号をスマホに登録した。

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