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キョウダイ

第2章 やきもち、衝動。

いつの間にか、意識を失っていた。




夢を見ていた。




高い崖の上から落ちていく車。




カーブの多い山道。



崖の下は森のようになっている。




ガードレールを乗り越えて、車がまっ逆さまに落ちて行く。



まるでスローモーションみたいに、ゆっくりと。



車の中にあたしがいる。



まだ幼い、小学生くらいかな?


隣にもう一人、同じ年頃の男の子がいる。



大きな黒い瞳が印象的な顔立ち。



夢を見ているあたしは思う。



ああ、この子だ。



………ちゃん。



顔を忘れないようにしなくちゃ……。



あたしの大事な………なんだから。



車の中であたしとその子は手を繋いでいた。



だけど。



ガードレールにぶつかって、衝撃であたしの小さな体は宙に舞う。



車の窓の外に投げだされてしまう。



ふわりというリアルな浮游感。



繋いでいた手が離れていく。



「………ちゃん!」



名前を叫びながら、必死に手を伸ばすのに。



手が届かない。



落ちていく。



あたしの名前を呼ぶその子の瞳が、ズキンと、胸に突き刺さる。



手が届かない。



必死に名前を呼ぶのに。



いつもその手が届く事はない。


夢なのに。


いつも同じ結末。


あたしはいつも泣きながら目を覚ます。



悲しくて妙にリアル。



何度も繰り返し夢を見るのに。



目を覚ますと忘れている。



その子の顔も。



名前も。



忘れたくないのに。



覚えておかないとと思っているのに。



目を覚ますと忘れている。



大事な事だと思うのに。



どうしてだろう?



子供の頃から繰り返し見ていた夢。



いつもの夢。





「…………ちゃんっ!」



気付けば声に出して叫んでた。



無意識に手を伸ばす。



その手を。



優しく掴まれる。



誰?




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