キョウダイ
第14章 陽だまりの優しさ
明の心臓はなおったわけじゃないの?
「死ぬかもしれないと言われた子供が、海外で大きな手術をして、それが成功したとして、いきなりなんのリスクもなく元気に長生きできると思う?」
皮肉気な眼差し、ゆっくりと立ち上がり、あたしに近付く。
ゆらりと不安定な足取り、その体を支えるように、手を伸ばす。
「世の中そんなに甘くないって事」
ニヤリと自嘲的に笑う。
少し大きめな黒い瞳があたしの目を捕らえる。
「この苦しみから逃れられるのなら、俺は早く奏のところに行ってもいいんだけどね?」
その瞳の奥にある、闇が、語っていた。
死にたい、と。
本当にそう思っているの?
「明は……生きたく……ないの?」
バカにしたような笑い声をあげる。
「今まで無事にいられただけで、感謝してるくらいなんだよ?何言ってるの?」
「明……!」
良く分からないけど、いらいらした。
もやもやした苛立ちを感じる。
「俺の好きな奴はみんな死んでしまった。入院してる時もね、心を許せる奴がいたんだ。でも、病院だからね、病気だからそりゃあ死ぬよね。帰って来たら、奏もみんな死んでるし、生きてたら会えるって、君が言ったんだよ?
会いたい人には二度と会えない。
君も、手に入らない」
あたしの髪を引っ張る。
昔からやる、意地悪なしぐさ。
「つまらない事ばかりだろ?」
「そんな事ない、良いことだって、沢山あるよ!」
「へぇ、それって何?」
意地悪な顔をして、またあたしの髪をぐいっと引っ張る。
「痛いっ!」
いきなり、いつかのように、キスをされる。
あたしの髪をつかんだ手が、がっちりと後頭部に回され押さえつけるように、唇が重なる。
「……んんっ!」
激しく舌を絡められ、明の舌を拒否しようともがいても、執拗に絡められる。
殴ろうとする腕はがっちりと手と体で押さえつけられて封じられる。
蹴ろうとする足も明の長い足でがっちりと絡められ、押さえ込まれる。
いつも無気力そうで、皮肉な冗談ばかりの明のどこに、こんな激しさがあったんだろう。