キョウダイ
第14章 陽だまりの優しさ
知らなかった。
あたしが怒って殴ればすぐにかわすか、降参するかしていたし。
こんなに力があるなんて……。
力強い腕、広い胸、熱い体温。
全てが男の人なんだと、思い知らされる。
どこかで侮っていたのかもしれない。
意地悪だけど、明は本当の意味ではあたしを傷つけない。
気付いた瞬間、恐くなった。
嫌だ、こんなのは、嫌だ。
「……やっ!やめてっ、明……!」
「教えてよ、生きてたらいい事を、君が教えてくれなきゃ、分からない」
明の瞳がぎらついている。
野性的な獣のような光を宿して、いきなりあたしの制服のスカートをめくりあげた。
「いやぁっ……!誰かっ!」
助けてっ……!
その時あたしが頭の中で真っ先に思い浮かんだ人は……。
さっき、会ったから。
会って話をしたから……。
「葵っ!なにやってんだ、お前は、明っ……!」
理科室のドアが勢い良く開き、聞き覚えのある声……。
あたしは信じられない思いで、首を振る。
だって、さっき、別れて、部活に参加するって……。
行った筈だ。
だから、こんなにタイミング良く、来るわけない。
願った通りに、思い浮かんだ人が来るなんて。
「……海斗……」
その名を呟く。
明の拘束していた腕が緩む。
スッと押し付けられていた体が離れて、あたしは床の上にぺたんと座りこんでしまう。
「海斗……、また、お前?昔から邪魔ばかりするよね?」
「明……!お前、どんだけ葵を泣かせりゃ気が済むんだ!?今回ばかりは許せねぇぞ!」
海斗の声が低い。
明を鋭く睨みつけて、思いきり胸ぐらを掴む。
対する明はなすがままに、胸ぐらを激しく掴まれる勢いに身を任せている。
今にも殴りそうな、海斗の勢いにあたしは慌てる。
「待って海斗!明は、具合が悪いの!」
「はあ!?」
眉を寄せて怪訝そうな様子。
「……バカな事言わなくていいから」
早く殴れば?
殴られるのを待っている様子だけど。
「ダメ!海斗!」
叫ぶあたしの声で海斗の肩が震える。